現状報告・いつかの僕へ
今の自分を何と言えばいいだろう。何がやりたいのかはわかってる。幸運なことに、僕が今やりたいと思っていることは、僕が今やるべきだと思っていることと一致している。
それならなぜやらないのかって? 苦しいからだ。悲しくて、つらいからだ。それに、足りないと感じているからだ。今でないと感じているからだ。
あぁ。心のどこかでわかってる。僕の書く文章は誰も読まない。誰かが読んだとしても、それを僕の利益にしてくれたりはしない。わかってる。僕は読んでほしい。感じてほしい。お願いしているのは僕の側で、もしお金が絡むなら、僕はもらう側ではなく、むしろ払う側なのだ。
これは僕のわがままであり、誰かのわがままではないのだ。
人生は苦しい。そんなのはずっと前からわかってる。
みな苦しんでいる。そうとも限らないことも前からわかってる。でも関係ないんだ。
断ち切りたいんだ。裁断の原理という言葉が頭から離れない。僕が欲しがっているものだ。切り捨てたいものがあまりに多い。でも切り捨ててはいけないということだけはよくわかっている。どちらが正しいかじゃない。どちらが自分にふさわしいかなのだ。
僕は自分がどういう存在であり、何がふさわしいのかわかるようになってきている。
今の僕は、昔の僕が思っていたような僕じゃない。よい意味でもそうだし、悪い意味でもそうだ。
僕は理想に近づけない弱い人間だと自分のことをかつて思っていたが、今はそう思っていない。僕は、もうその存在だけで、ある意味では完成されており、それはずいぶんどうしようもない存在でもあるのだ。
僕は、テレビやネットの有名人たちのような、出来のいい人間ではない。身近にいる幸せそうな人や、正常な社会生活が送れる人たちほど、まともな人間でもない。
僕はどうしようもない人間であり、くだらない存在であり、しかもちょっと変わっていて、孤独が定められていて、それが心地よくて、自分にふさわしいのだと分かっている人間なのだ。
モグラは土の下が自分の居場所だと分かっている。鳥たちが、上空からモグラをどれだけ馬鹿にしたとしても、モグラは空に憧れたりしないし、するべきでもない。もしモグラが空に憧れたとしたら、それは一種の狂気だ。
そういう意味において僕は今までいくつも狂気をくぐってきて、それで自分が何者であるか知った。僕は「己を知れ」「身の程を知れ」という言葉を、これ以上ないほど真剣に受け止めて、それを自分の体の一部にしたような気がする。もちろん、そういう自己認識もずいぶん思いあがったものだと思うけれど、僕はそういう生き物なのだ。
土を掘り進めていく。仲間と出会えることはまれ。出会えたとしても、お互い目がよく見えないから、相手を上手に褒められない。気まずくなって袂を分かつ。
ある意味ではとても器用で、ある意味ではとても不器用な僕ら。言葉の世界で、誰よりも自分の気持ちを上手に表現できている気になっている。それはある点においては正しいと思う。僕ら自身以上に、僕らの感情や心情を表現できる人間はいないことだろう。
でも、熊が自分が冬眠するための穴を掘るのに他のどの動物より秀でているということは当たり前のことであるし、そのことを他の動物が褒めてくれることなんてありえないし、そもそも他の役には立たないのだ。自分のためでしかないのだ。
結局僕が得意なことはすべて、僕自身の中で完結してしまい、誰かのいる世界の中で、互いの利益を増やしていくことができない。そうするにはあまりにも僕らは醜いし、愚かであるし、奇妙で、悪人である。
僕らは、ただ自分が自分であるというだけで、どれほど痛みと悲しみを抱えてここまで歩いてこなくてはならなかったことか。でもかつて僕らの祖先は、一匹残らずこの感情を抱えて生き残ってきたのだと思う。もともとは、誰も空気中で呼吸などできなかった。空気中で呼吸できない生き物が、陸上に出ようとしたとき、彼は自らの体によって苦しんだ。自らの体と、自らの意志の相反する性質に苦しんだ。それでも歩を進めた。進めざるを得なかった。長い時間の中で、そうせずにいられない個体がいて、そうした個体もまた、生き残ることが許されたのだ。
おそらく僕らは生き残る。そして僕らは、おそらく、ある意味において、他の人間たちより一歩先を進んでいる。追うものがいるかどうかはわからない。目が見えないから。
僕らは今苦しんでいる。自らの知性と欲望に挟まれて、僕らの進化と旧態依然の体質の戦争に巻き込まれて。
でもいずれ僕らは勝利して、自らのその特殊な生を、苦労せずとも受け入れ、愛し、その生を楽しむようになることだろう。
働きアリは、なんと幸せそうに働いているのだろうか。働かないアリは、なんと幸せそうに仕事をさぼっていることだろうか。僕らもそうでありたいのだ。どちらであったとしても、だ。
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