存在しない者
人の気持ちに寄り添えなくなったのは
自分自身を大切にできなくなったから
人の不幸を笑えるようになったのは
自分の恥を他人事のように笑えるようになったから
大げさな話をすることに痛みを感じなくなったのは
人の話を覚えておくことができなくなったから
自分がそうなら皆もそう
皆がそうなら自分もそう
そういう生き方が板についてきて
そういう生き方が 他の生き方よりずっと楽で
自分の感覚や認識を 極限まで弱くして 意味のないものして
誰かと語り合えることだけを本当のことだと信じて
昔信じていたことは全部忘れることにして
一本の根無し草として
過去を持たぬ者 顔を持たぬ者として
このつらく苦しい人生を 極力楽に生きようとしている
欲しいものもなく 手に入れたものもなく
ぼくはただ時間を浪費し 最後には神に抱かれるのか
はたまた虚無の中に沈んでいくのか
ぼくが思うに(かつての自分ならわからないが)今の自分には 慈悲深き神よりも 想いを持たぬ虚無の方が 似合っていることだろう
そう ぼくは存在しないもの 存在を拒むもの
ぼくは生きていたくなかったから それなのに自殺することを誰も許してくれなかったから
存在することをやめて 一切の責任から抜け出して
ぼくは存在しない人間として すなわち「普通の人間」として
そう生きることを決めた
そんな思想を持つ一個の人間は 客観性の視点の中で
ある種特別な人間として扱われるかもしれないというのは
少し皮肉な話だ
ひとつ 今でも思うことがある
おそらく どんな悪人 ろくでなしであったとしても
悩む人間は 悩まない人間よりも 優れている
悩まなくなったぼくらは 今でも悩んでいる人たちを馬鹿だと思いつつ
彼らを心の底から尊敬している
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