どうでもいいもの
あくへき
環境汚染運動
「あの、何してるんですか」
「ごみを海に流しているんです」
「どうしてそんなことをするんですか?」
「私、環境汚染運動家なんです。環境汚染を促進しようと思って、微力ながらも頑張っているんです」
「どうしてそんなことをするんですか?」
「だって、環境汚染が進めばみんな困るんでしょう? みんな困れば、平等じゃないですか」
「そんなのおかしいと思います。平等っていうのは、皆が幸せになることであって、皆が不幸になることではないと思います」
「じゃあ私を幸せにしてください」
「それは、それぞれが自分の力で幸せになるべきものですし、人からもらったものでは決して人は幸せにならないんですよ」
「だから、こうやって環境汚染運動をしているんです。こうしている間は、私は幸せでいられるんです。不幸になっている人の顔を見ずに、人を自分と同じくらい不幸にするための力添えができているんですから」
「そんなことよりも、もっと人の役に立つことをしたらどうなんですか?」
「私の役に立ってくれてない人の役に、ですか? 私は私を汚染してくれた人のために、私もその人たちを汚染してあげようと思っているんです」
「人を困らせることと、人の役に立つことは違います」
「えぇ。だから、人を困らせたいんです。役に立つのではなくて」
「私たちは自由ですけど、人を困らせる自由はないんですよ」
「そんなの不公平じゃないですか。社会や世界は私を困らせるのに、どうして私が社会や世界を困らせてはいけないんですか? そんなに嫌なら、私を殺せばいいのに、どうして私を放っておくんですか?」
「かまってほしいんですね?」
「もう今更なんですよ。遅すぎるんです。何もかも。だから私は、少しでも環境を汚染しようって思ってるんです。そうしているときだけは、私は救われているような気がするんです」
「自分が救われるために人を傷つけたり困らせたりすることは間違っています」
「でもあなたの言葉で私は傷ついている。困っている。あなたにとって私は人ではないんですね」
「人を傷つける人や困らせる人には、そのルールは当てはまらないんですよ」
「だから、傷つけてもいい人を選んで傷つけることによって、傷つけたいという欲求を満たしているんですね。善良なんですね。私は違うので、みんなを傷つけようと思います。そうすれば、私の友達を傷つけずに済むので」
「あなたの友達だって、環境が汚染されたらその分健康を害すると思いますよ」
「私の友達は、環境が汚染されていなくたって健康を害している人なんです。その人にとって、みんなが苦しんでいる方が、健康な人に囲まれて自分ひとり苦しんでいるよりも幸せなんです。孤独ほど、つらいことはありませんから」
「誰かの孤独をいやすために人を苦しめているんですね」
「私の、ですよ」
「あなたはひとりじゃない」
「そう言って私をひとりにしたのはあなた方なんですよ」
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