病病
僕は病気になったらしい。というか、結構前から病気だったらしい。
いつから調子が悪くなるか聞かれたから、わからないと答えたら「一年前はどうでしたか」と問われた。僕は「今とあまり変わらなかったと思います」と答えた。「五年前は?」「五年前も同じでした」
今の僕はどうやら、客観的にみると、病気らしい。僕はものごとを客観的に見る目を持っていないから、そういう能力がないから、よくわからない。健康と病気の境目がどこにあるのかとか、そういう質問をしたこともあるけれど、病気の人の病気の質問に答える人なんて誰もいなかった。
というか、そういうことを気にしたり考えたりすること自体が病気だっていうことなんじゃないかと僕は最近勝手に思ってる。
病気じゃない人間はそんなこと考えない? 病気じゃない人間が考えることって何だろう。好きな人のこと? 好きな食べ物のこと? 最近あった楽しいこと? 悲しいこと? つらいこと?
僕はなんだか、そういった事柄より、もっと抽象的でぼんやりとしたことを考えることが癖だった。もうずっと、子供のころからそうだった気がする。つまり、そうなった時点で僕は多分病気だったんだな。他の人とうまく話せない、欠陥人間になっていたんだな。
でも勉強はよくできたから、大人は僕を褒めてくれたから、運動もそう苦手ではなかったし、ルールの中で工夫するのは得意だったから、僕は病気だと言われずに大人になった。順調に大人になった。でも大人になると「おかしい」とか「変わってる」と言われるようになって、病院に行ったら、はっきり病気だって言われた。なんの病気か聞いたけれど、教えてもらえなかった。病人は健康になることが大事なのであって、病気の名前を聞いて病気がさらに悪くなるなら、医者は患者のために黙っていなくちゃいけないと、何かの本で読んだけれど、その本によると、こういう仕組み自体も、本当は患者さんが知らないようにしなくちゃいけないらしかった。
そんなどうでもいいことを気にすること自体が病気だから、気にしないように誘導しなくちゃいけないとのことだった。
僕はずいぶん難しい病気にかかっているんだと思った。
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