概要
人は死ぬと姿を宝石に変えた。けれど、黄昏の獣に食べられてはいけない。宝石も残らず消えてしまうから。
それはいにしえの罪の代価。錬金の王と呼ばれた最初の王さまが犯した罪──空から落ちた天のみ使いを愛したことの代償。
錬金の王と同じ姿をした少年リゼルは最後の王として冠を戴く。そして、兄も母も父も失くした孤独な少年王は、封じられた塔のてっぺんで片翼の天のみ使いを見つける。
すべては世界が崩れて終わるまでのさいごの光芒。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!あまりにも哀しい御伽噺。けれど物語を貫くのはそれでも生きた人の強い意思
この世界に救いはない。人間にできることはただ祈り、足掻き、それでも生き続けることだけだ。
作中からは常にそう語りかけるような冷たい空気が漂う。淡々とした精密な筆致が、さらに気温を底冷えにさせる。孤独な少年王と神のみ使いの行く末に歓喜はなく、権力とて神の力とて、虚無には勝てないのだと思い知らされる。
それでも。
それでも不思議と後味の悪さはないのです。残酷な御伽噺を読んだ、そんな感慨が胸を突くのに、なぜか。
それは自分のたどり着けない遥か彼方を見つめてひたすら歩いた少年王の眼差しを思い出すからなのでしょう。彼はひたすらに孤独の中を歩き続けた。その道が己にさいわいを与えることはないと知りながら。…続きを読む - ★★★ Excellent!!!錬金術師の王様が治める世界に残された「真実」。あなたはここに何を見る?
宝石は、光が当たれば輝き人々を魅了するのに、光が当たらなければ存在すら認知されない。光が無ければ価値どころか存在も認知されない石ころに、はたして、存在している意味はあるのだろうか?
物語の主人公、終わりが迫る国に終わりの王として座することになったリゼルの行いもまた、意味を問われ続けるものだった。自分の心も願いも殺し、民に献身し続ける健気な王様。民を守ろうと頑張り続けた彼の行いには、しかし誰かを殺すことから始まり、その手は血に染まり続けた。
リゼルの思いは正しい。本当に? リゼルの行いは正しい。本当に? 本当かどうかの繰り返しに、やがてリゼルは消耗しきり、彼の隣を望んだ天のみ使い、クラ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!宝石は輝き、砕け、そして花となる。
『私は悲劇を愛する。悲劇の底には何かしら美しいものがあるからこそ悲劇を愛するのだ』
喜劇王と呼ばれたチャールズチャップリンの名言である。この物語を読み終わり、目を閉じたとき、かのチャップリンの言葉が頭に思い浮かんだ。
本作は悲しき物語である。そして、それゆえに美しい物語である。
望まずに王となった錬金術の天才少年リゼル。
片翼の翼をもつ天の御遣いと呼ばれる少女クライノート。
宝石のように美しく、硝子細工のように儚い彼らの人生が、ここには鮮烈に描かれている。
読んだものは思うだろう。
――救いがない。しかし、なんと美しいのか。
それはひとえに作者様の秀麗な感性と…続きを読む