宝石は輝き、砕け、そして花となる。


『私は悲劇を愛する。悲劇の底には何かしら美しいものがあるからこそ悲劇を愛するのだ』


 喜劇王と呼ばれたチャールズチャップリンの名言である。この物語を読み終わり、目を閉じたとき、かのチャップリンの言葉が頭に思い浮かんだ。

 本作は悲しき物語である。そして、それゆえに美しい物語である。

 望まずに王となった錬金術の天才少年リゼル。
 片翼の翼をもつ天の御遣いと呼ばれる少女クライノート。

 宝石のように美しく、硝子細工のように儚い彼らの人生が、ここには鮮烈に描かれている。
 読んだものは思うだろう。

 ――救いがない。しかし、なんと美しいのか。

 それはひとえに作者様の秀麗な感性と、キャラクターに対する愛がなせる技ではないかと私は考える。ただ残酷なだけではない。風と散る桜が美しい情緒を引き出すように、砕け散っていく世界とキャラクターたちの心理描写があまりにも情緒的で、愛をもって書かれているからこそ、美しいのだ。詳しくはネタバレになってしまうからかけないが、大切なものを次々と失い、望まぬ力を手に入れ、世界のために自分の体さえ差し出したリゼルの孤独な心情や悲愴が、そんなリゼルたちを愛を持って心配し寄り添うクライノートたちの想いが、これでもかと丁寧に丁寧に、まるで石を磨くような繊細さで表現されている。その心理描写の巧みさも、本作の特徴ではないかと思う。

 また、この物語のもう一つの特徴として神話性が上げられよう。たとえば、冒頭の天の御遣いと初代錬金術の王との物語。たとえば、死とともに石となる人間たち。錬金術で生み出されたホムンクルス。世界の終末を予感させる様々な概念。こうした一貫した神話性は、この物語の美しさを支えている重要な要素の一つだろう。あまりにも神秘的だから、残酷な悲劇すら敬虔に映る。そうした効果もあると思う。

 ネタバレを避けつつ、色々と語ってしまったが、まずは手にとって、この物語に流れる作者様の鋭い感性と、悲劇の中に宿る美しさを感じとってもらいたい。私が雄弁に語るより、そちらの方がかならず良い悲劇のカタルシスを感じられるはずだから。

 斑鳩睡蓮氏の、美しき残酷な世界をあなたも楽しんで欲しい。

 読み終われば、かならず心を動かされるはずだから。


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