★★★ Excellent!!!
美の極み。美の傲慢。美の悲しさ。美の絶望。美の喜び。美の愛。 濱風ざくろ
美しい。
まず、その感想が先に来てしまう。
人は圧倒的に美しいものを見たとき、言葉を失う。思考が緩慢となり、感情があふれ、とまってしまうのだ。荘厳な松島の光景を見たものが、「松島や、ああ松島や、松島や」と詠ったように。
この小説でも、同様の現象に出会う。豊富な語彙と完璧に計算され尽くした平仮名と漢字のバランス、そして深い教養が織りなす文章により、読者は言葉を殺されひたすらに「美しい」と感嘆の極みへと到達する。ある種それは、芸術の本然たる姿であり、理想の到達点でもある。「美しい」という言葉以外浮かばなかった方がいたとしたら、悲観することはないと思う。この小説は、そういう芸術なのだ。言葉を失うに足る美しい表現の坩堝なのだ。まさに、ギリシャの彫刻の完成された美に匹敵する作品なのである。
この作品は、内容においてもまた美を極めている。まず前提として、美という概念そのものが本作のテーマなのだから当然といえば当然なのだが、美というものをけっして平面に捉えていないところが、本作の特徴であろうと思われる。
ただ美しいものを美しく書くだけの作品なら、正味珍しくはない。だが、美が主観による傲慢さを孕むこと、美という概念は捉え方によって脆く崩れさること、美が永遠たり得ないこと、美の対象となったものが被る迷惑。そういった、ある種の美の本質と美が持ちうる危険性について触れながら、美の凋落を書いていこう…
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