僕は指導者にはなりません 前編


 ギルド長は、虹色に輝く剣を天に向かって掲げ、戦いの開始を告げた。


「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 隊列を組んだ、とんでもない数の冒険者が一斉に雄たけびを上げる。


 すると、その戦意にガメーガンもいきり立ち、甲羅の中から出している顔が、大口を開けて牙をむき出し冒険者たちを威嚇し始める。


 勇ある冒険者たちも思わず後ずさりしてしまった。


「わはははははははは!」


 そんな中、ひとりギルド長の笑い声が木霊する。


 急になんだろと思ったら、


「見よ! 威嚇だけじゃ! それだけで襲ってはこない! つまりビビってんじゃ! こいつはのぅ!」

「……ああっそうか……そうだそうだっ」

「そうだぜビビってんだぜ! あの亀野郎は! はははは」

「ギルド長の言うとおりだ! あんなもん屁でもねぇぜ! はははは」


 大笑いするギルド長を冒険者達は見て、自分達も口々に叫び声をあげ、笑い出す。


 士気を取り戻したのを確認したギルド長は、


「よし! 攻撃開始だ! 第一陣突っ込むんじゃ! 援護魔撃を打ちまくれ!」


 虹色に輝く剣を振り下ろした。


 やはりギルド長なかなかやる……。


「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 冒険者が鬨の声を上げる。


 ガメーガンとの対決が開始された。


 全冒険者が、それぞれスキルを発動させ、迫ってくるガメーガンへ突撃していく。じーさんは、もう僕らの事に見向きもしないで戦場を望んでいた。


 冒険者達の突撃を後衛の魔法使い部隊がホラノー(火球魔法)の援護魔撃を繰り出す。戦場に広がっていた青空を真っ赤に変えるほどの火球が、ガメーガンに降り注いでいった。


 たまらずガメーガンが顔を背ける。甲羅の上の森にも被弾し燃えだしていた。


 それを何とも思ってないのか、小山ほどの巨躯を持つガメーガンが、一歩一歩、変わらぬ遅さで、こっちへ近づいて来ている。


 鈍足であるが、その一歩脚が下ろされるごとに地割れが起きて、大地や空が震えていた。さすがA級モンスター……人間に勝てる気がまったくしない……。


「ねぇロザリンドさん、ちょっと耳貸して」


 小さな声で、ロザリンドさんに耳打ちする。


「何でございましょうか?」

「ガメーガンってさ、やっぱり君を守るために配備した奴だよね?」

「いえ、違うと存じます」

「? なら、なんで魔界にいるやつがこんなところに急に……」

「うーん……」


 ロザリンドさんは人差し指でほっぺを触りながら、首をひねった。


「……たしか、魔りんごの種が100年の歳月を掛け、地中の栄養を吸い取り、晴れて完全体に成長したものが、あのガメーガンでございます。でございますので、誰かがここらへんで魔りんご食べて捨てたのでございましょう」

「ふーん、迷惑な奴だな……」

「何をおっしゃいます、人間どもめ、良い気味でございますよ」


 眉を吊り上げ、僕を睨む。


「……」


 僕は何も言い返せなかった。


「それにリベルラ様、ここは特等席でございますね」

「特等席?」


 ロザリンドさんは、ニコニコしていた。


「人間共が殺されるのを、じっくり見れますよ、ここからなら」

「……そんな、そんな事……」

「どういたしました? リベルラ――」

「――ガメェェェェェェェェェェェェェァァァァァァァァァァァァァ!!」


 ガメーガンが雄叫びを上げた。


 驚いてみてみると、ガメーガンが大口を開け噴射した息が、炎となって突撃中の第一陣に襲い掛かっている。


 全員に対炎レジストのバフはかかっているとはいっても……。


 冒険者達は、苦しみながら盾を構え、炎の中をなんとか耐え突き進もうとしている。


 その時、甲羅の森から大量のモンスターが飛び出して第一陣に襲い掛かった。


 その数は、パッと見ただけで何百じゃすまないっ。何千といる。皆、我が家の森を燃やされ怒り狂っているのが遠目でも分かった。


 やばい! このままじゃ、何人も死んでしまう!


 僕ならきっと……。


 ガメーガン……いくらデカくてもA級モンスターなら、普通に倒せるんじゃないのか。さっきS級の炎竜を倒したし、しかも一発で……。


 責任は僕らにある!


「ギルド長!」


 ロザリンドさんを無視して、膝をついてうなだれているギルド長に駆け寄った。


「僕が倒してきます、A級モンスターだから楽勝ですよ。任してください」

「へぇあ?」


 僕の言葉に、ただ呆気にとられた顔で見上げてくる。


 えらく長い事じっと見つめてきた。


 何かと思っていると、口をパクパクさせ始め、


「な、な、なななななな、なななななな……」

「な?」

「ななな、何訳の分からないことを言ってきてるのじゃーーーーーーーーー!」


 勢い良く立ち上がり怒鳴ってくる。


「いえ、ホントです。さっきも炎竜を倒しましたし」

「炎竜、ああ、あそらへんの洞窟にいるやつか。たしかあれはS級モンスターだった気が……」

「そうです、ぶっ飛んでったでしょ」

「何言ってるのじゃ! そんなもの見とら……あれ、そういやなんか赤いものが一瞬で空に消えていったとかいう報告が……って、そんなことはどうでも良いわーーーーーーーーい!」


 急に声を荒げるから、耳がキーンってなった。


「あの、急に怒鳴らないでくださ――」

「――うるさーーーーい! どっか行け! だいたいてめぇらが起こさなかったらなにもなくすんどったんじゃーーーーーーー! しっし邪魔するな! 忙しいんじゃ、ぼけーーーーーーー!」 


 ……聞く耳を持ってくれない……。


 こりゃ話できないぞ……勝手に戦闘に参加しても良いかな……。

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