特級クラススキル【覇王の紋章】とか信じられるわけ……


 僕はびっくりして身をのけ反らしてしまった。


 何を急に言い出したんだ?


「炎竜って、この洞窟を守ってるとかいう?」

「そうでございます、お父様が私を守るために、エサで釣って運んできたS級モンスターでごさいます」

「S級!? そんなえげつないのだったんですか!?」

「はい、早速呼びましょう!」

「呼ぶって、どうや――」


 女性が、足元の小石を拾い、息を大きく吸い、

 

「おーいクソドラゴン! 侵入許してるぞ、ボケが! お前の大事なクリスタルいてこますぞ!」


 背後にあるクリスタルに小石を投げる。


 クリスタルの、カーーーーーーーーン、という甲高い音色が響いた。


 それだけやり終わると、腰に手を当て、胸を張り、


「ふふんっ、あのドラゴンは耳が遠いのですが、エサにこうすると必ず気づき、気が狂ったように攻撃してくるのでございます」


 勝ち誇ったように、笑みを見せる。


「なっなっ何考え――」

「――グガァァァァアアアアアァァアァ!!」


 耳をつんざく雄叫びが轟いた。赤く発光する岩肌にひびが入る。たちまち大きな亀裂となって、けたたましい音と共に天井が崩れ落ちてきた。


「デビール・バリア!」


 叫んで拳を握り、腕を巨乳の前で×字に組む。僕らの回りを囲むように、半透明の怪しい光を発する薄い膜が現れた。


 落ちてくる岩や石や砂が、それに触れた瞬間、ポヨンと跳ねて遠くに落ちていっく。流砂を下から見てるような光景が目の前に繰り広げられていた。


 まぶしっ。――洞窟に光が差し込む。


 青空が広がっていた。意外に地表に近かったらしい、岩とかも落ちて来なくなった……てっそんなことより、あれが炎竜!


 空いた天井から、真っ赤なドラゴンの巨大な顔がにゅっと降りてくる。鼻っ柱に巨大な固い角、それ越しに見える巨大な両目が僕らを捉えた。


「さっ、覇王の戦いを見せてくださいませ、リベルラ様。こんなバリア、炎竜にとっては嚙み応えのあるバゲットくらいにしか思われませんと存じますゆえ、早く」

「できるわけないでしょ! 死んだ! せっかく助かったと思ったら死ぬなんて……」

「グギャァァァァアアアアアァァアァ!!」


 炎竜が家一軒ぐらい丸呑みできそうな大口を開けて、僕らに迫ってきた。


 しかし、デカい体がどっかに引っかかったらしい。僕らに噛みつける、すんでの所で口が止まり引き返していく。


 僕は恐怖で、恐怖すら感じなかった。


 ただ、次に勢いよく突っ込んできたら今度こそ食われるな。茫然と、引き返して助走をつけて、突っ込もうとする真っ赤な蛇体を望むばかりだ。


「大丈夫でございます!」


 手を叩き、にこやかな笑顔で僕を見る。


「何が大丈夫なんですか……」

「リベルラ様が一発ぶん殴れば、あんな炎竜をなどいちころなのでございますとも、ええっ」

「何言ってんですかロザリンドさん!」

「? リベルラ様、バフがかかってりますゆえ、慌てる事はないと存じますが?」


 何でそんな、ぽわんとした呑気な声音で尋ねてこれるんだ、この人?


「強力なバフっつっても倍とかじゃ、あのS級モンスター相手には何の役も立てない! 元のステータスが低すぎる!」

「何をおっしゃっているのでございますか?」


 ハの字眉になって、目じりを下げて頭を傾け、しぼんだ顔になって尋ねてきた。


「あっなるほど! 勘違いをなすっていたのですねリベルラ様は」


 手を叩き、納得の表情で、


「覇王の紋章のバフ上昇は、2倍などのものではございません。ちゃんと覇王の名にふさわしく、戦闘時補正は全て1万倍、受ダメージは1万まで無効の補正でございますともっ」


 腰に手を当て、胸を張って、ふふんっと鼻を鳴らし言った。


「グガァァァァアアアアアァァアァ!!」


 炎竜がまた大口を開けて、僕らに迫ってきた。前に引っかかた岩を、勢いをつけた体当たりで粉砕しながら僕らに牙を向ける。


 今度は余裕で僕らまでその大きな牙は辿り着いた。


 ああ、食べられる……。


 横に居たロザリンドさんがしゃがみこみ僕にしがみつく。僕は微動だにできなかった。炎竜の口が閉じるのをただ見ていた。


 大きな牙が僕の頭に突き刺さる。


 何言ってんだ、1万倍なんだかんだと。一体なんのこっちゃ……こうやって僕らは食べられてしま――


「――ガギャアアァァァァァァアアアアアアアァァァァァアァァァ!!」


 炎竜が悲鳴を上げて、後ずさりしていく。


 ……あれ?


 その大きな口に生える、僕を噛んだ牙が粉砕していた。


 僕はうろたえていた。


「さすがでございます! リベルラ様!」


 ロザリンドさんはキャピキャピと踵を上げ、両手を広げ、大きな胸を揺らし、体全体で喜んでいる。


「……何が、起こったんです? 僕は何もしてないですけど……」


 なんで、ドラゴンが……なんで、僕は食べられなかったんだ?


「ダメージ反射の効果であると存じます」

「そんなバカな……」

「……リベルラ様は、何をそんなに否定なさるのでございますか?」


 ハの字眉になって、頭を傾け、しぼんだ顔で僕に尋ねてくる。


「だって……だって、僕は今まで……」


 本当なのか? でもさっきのはなんなんだ……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る