S級モンスターをワンパンチ!?


「この期に及んでまだグダグダとっ。もうっそんなに疑うのでしたら、妾に良い案がございます」

「良い案?」

「リベルラ様、パンチでございますっ、パンチして撃退してくださいましっ」


 と、眉を吊り上げ、フットワークに乗せて連続パンチを繰り出してきた。


「一発、思いきり炎竜を攻撃してみれば、疑いも張れる事と存じます」

「素手で……あんなのと――」

「――グガァァァァアアアアアァァアァ!!」


 炎竜が叫び声を上げる。牙をむきだして、怒り鼻からふんふんと息を激しく吐き出して、大きな目玉の中の瞳孔が開いて、僕をギっと睨んできた。


「めちゃくちゃ怒ってる……」

「トーぜん怒りますよ。歯を砕いたのですよリベルラ様はっ。ご自分もされたら怒りますでしょ?」

「グガァァァァアアアアアァァアァ!!」

「来ますよっあのバカドラゴンがまた! リベルラ様、さっ、パンチでございますよ!」


 ささっとロザリンドさんが、僕の後ろに回ってしゃがみこんできた。


 炎竜は思いきり長い蛇体を伸ばし立って、上空から僕ら目掛け、頭から落下するように襲い掛かってくる。空が遮られあたりが暗くなった。


 今度はその巨体で潰そうと考えたか……。


 ぐんぐん迫りくる炎竜を見つめ、僕は、ぐっと腰を沈めた。


 パンチ? あれにそれをしろと?


 腰を捻り、引き手をしっかりとる。


 ……もう信じるしかない……。


 炎竜の巨大な角を突き立て、すぐそこまで迫ってきた。


 もう、こんな状況になっては……。


 引き手をグッと握り拳に変える。


 どうにでもなれ!


「どりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ぐっと握った右拳を力いっぱい突き上げた。


 僕の拳は突き立てた角に命中する。炎竜と衝突した衝撃が拳に伝わった。


 その衝撃が、体を通って足元の地面を粉砕する。僕らの体が沈み込んだ。


 同時に、炎竜が空に向かって突き飛ばされていく。


――ドギャアァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!


 巨体が高速度で移動した際に衝撃波が生まれ、空気を圧縮させ爆音を響かせた。


 はるか上空、流れる雲を吹き飛ばし、赤い蛇体は青い空の向こうに消えていく。


「……、……ふぇ?」

「きゃあああ! さすがやでぇリベルラ様わぁ!」


 ロザリンドさんが、抱き着いてきて我に返った。


「もう惚れてまうわ、こんなんされたらぁ」

「ほ、ほんとに、殴ったら、こんな、バカな、ホントに、僕の力で?」

「やっと、ご理解いただけましたか」

「……いや待て、おかしいおかしいっ」


 頭を激しく振り、目をぎゅっと瞑る。


「リベルラ様……一体何が、おかしいのでございますか?」


 足をもじもじさせながら、首をひねって尋ねてきた。


「だって、今まで僕はこんなバフが掛かってたなんてことなかった……。ずっといじめられて……ずっと役立たずと……」

「使ってこない人生を、お歩みだったのでございましょ? リベルラ様は」

「……いえ、それが……、あの例えばさっき死にかけだったでしょ、あれは何だったんですか!?」


 ひねっていた首を逆にひねり、困った表情で唇に人差し指を当て、


「? うーん……何だったのでございましょうね? 変でございますね……」

「そうですよね! おかしいですよね!」

「うーん……」

「なんでだ……」

「……リベルラ様」


 神妙な顔つきで、僕を見つめてくる。


「なんですか?」

「妾は早くここから出たく存じます」


 への字口になって、睨みつけるように見てくる。


「だからなんでですか?」

「さきほどから、その、リベルラ様同様、お花を摘みに行きたく……」

「へ?」


 そういえば、さっきから足をもじもじさせている……。


「そのために炎竜も倒し、ここから出れることに相成った分けでございますから、早く出ませんとっ」

「なんですか急に、大事な事を話してるんですよ」

「いえっ、さすがにあんなっ、衝撃が加わりますとっ」

「そこらへんでしたら良いじゃないですか」

「そこらへんって、リベルラ様がいらっしゃるじゃありませんか!」


 ロザリンドさんが両腕を広げた。


「失礼いたします、デビール・ウィング!」


 ロザリンドさんの背中から怪しい光に包まれる。蝙蝠の羽のでっかいバージョンが、光の中からガバッと広がった。


「外に出てきます、ひとりにならしてくださいませっ」


 羽をはばたかせ、スカートを抑えながら飛んでいく。


 ……まぁ、100年やってなかったわけだしな……。


 それにしても何でだ……。


 思い当たるのならひとつある……あの実験だ。怪しいんだよな。あれで僕の中に変化が起こった?


 他にあるとすれば……まさかマンヒ達か? しかし、そんなのどうやって? そんなスキル、誰も持ってないだろ……知らないだけか?


「ガメェェェェェェェ!」


 なんか雄叫びみたいなのが聞こえてきた!


 なんだ?


――ゴゴゴゴゴゴゴゴ


 ん? 水音……?


――バッシャアァァァァァァン!


 なんだ!? 黄金色した大量の水が流れ込んできた!


 津波でも起こったのか!? 四方八方から大量の水が洞窟内に流れ込んでくる! それにこの水、変だ、生暖かい!


 足首にパンツをひっかけたロザリンドさんが、スカートを抑えこっちに飛んできた。


「ダメでございます後生でございます! リベルラ様、見ないでくださいまし! ダメェェェェェェェ!」

「マジですか!? こんな大量に!? これっ、わぁぁ! そんなぁ!」

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