パーティ離脱


 戦場を見渡せる、僕らが最初に降り立った場所に来るとギルド長だけでなく、一緒にマンヒもいた。


「てめぇ、マジで何で亀の甲羅なんだよ!」

「なんでって、カッコいいでしょ」


 マンヒが頭を抱える。横にいたロザリンドさんもなぜか一緒に抱えていた。


 なんだってんだ?


「それより、てめぇ何しに来やがった、おとなしく寝ていろ!」

「ううん、マンヒ、寝ていられないよ」

「なんでだボケ! 殺すぞこの野郎!」


 怒鳴るマンヒに、ロザリンドさんが、


「宜しいのですか、リベルラ様がいなくなれば、ガメーガンはこの街を飲み込むかもしれませんよ」


 その言葉に、ギルド長は、


「ぐはははっ、何言ってんだあの女! こりゃ傑作だ! おい! マンヒ殿あんなのが、この危機を救ってくれるんだとよ! ゴブリンに簡単にやられた奴が何言ってんだか!」


 めっちゃ馬鹿にしてきた。


「そうだそうだ! ははは、無能は出ていけ! ロッサ、とりあえず普通の服に着替えて、おとなしく寝ていろ!」


 マンヒも続いて、言ってくる。


「おどれ、いい加減にせんといてこましたるぞ!」


 その怒鳴り声に驚いて、ロザリンドさんの顔を見ると、その顔が怒りにゆがんでいた。

 

「えっ、なにっ? 急にどうしたのじゃ?」


 ギルド長が呆気に取られている。


「どうもこうもあるか! じじい、ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わしたろかい!」

「ひいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「ロザリンドさん、方言がでてるよっ、バレちゃうよっ」


 ロザリンドさんの怒鳴り声を、マンヒが訝しい目で見ていた。


「おい、あの女、妙に魔界弁が達者だな、まさか本物?」

「ははは、そんな訳があるわけなかろう」


 ギルド長は笑って否定している。が首をひねっていた。やばいな。


「でも、イントネーションが完璧だぜ」

「ホントじゃのぅ、つい、わしも悲鳴を上げてしまったわい」


 マンヒとギルド長が、ざわつき始める。


「ロザリンドさん! 落ち着いて落ち着いて!」

「へ? ああっ、しまってしまいました」


 ロザリンドさんが、小さく咳をすると、


「マンヒとやら、話がございます!」


 ロザリンドさんが、マンヒを睨みつけた。


「えっ、俺?」

「そうでございます」

「良いけどよ、てかやっと名前を覚えてくれたか、嬉しいぜ」


 ロザリンドさんが手で眼鏡を作り、


「デビール・アイ!」

「うわっ」


 マンヒの体に怪しい光が放射され、ステータスが表示された。


「何しやがんだ!」

「ご静粛に願います」


 ロザリンドさんが急に落ち着き払って、軽く会釈する。


「さきほど、マンヒ様の持つスキル、盗賊の極意の効果を確かめてみたのでございます」

「何っ! 何でそんな事を!?」


 うろたえているマンヒに、僕は、


「マンヒ、僕は、ついさっき、やっとわかったんだよ」


 静かにロザリンドさんの後ろから歩み出る。


「ずっと奪ってたんだね、盗賊の極意の効果で」

「な、何だよロッサ、俺に言いたいことでもあんのかよ」

「僕はマンヒのパーティから離脱する。受付も誰もいないから、その事をギルド長に直に頼みに来たんだ。それにギルド長なら特権で即座に離脱できるしね」

「ななななな、だから何のことだぜ」

「ギルド長、これをご覧くださいませ」


 ロザリンドさんがマンヒのステータスをギルド長に向けた。


「おい見るな!」


 マンヒの制止する声を無視しして、ギルド長はステータスを凝視する。


「パーティメンバーのスキルやステータスを奪う? 最低レベルで、じゃと?」

「ギルド長殿、リベルラ様をマンヒ殿のパーティから即座に離脱させていただきたいのでございます。さすれば、覇王の紋章の真の力が発揮できましょう」

「……覇王の紋章……前天帝の……これが本当ならば、この男は天帝となる素質が……そんな、そんなことが……」


 ギルド長が、僕を見つめたまま動かなくなっていた。


 なんか、ぶつぶつと呟いている。


「ギルド長殿、あのガメーガンなど、リベルラ様の前では雑魚同然でございます」

「無論……覇王の紋章の効果も、すごさも、わしはよく知っておる……この若者が、生まれ変わりという事か……」

「今からテキパキッと倒して差し上げますので、異例とし思いますが、今すぐ離脱処理をお願いいたします」


 ロザリンドさんが、力強くギルド長を見つめている。


「馬鹿な! 俺の補正強化でも駄目だったんだぞ!」

「ふふふ、あなたごとき、リベルラ様の足元にも及びませんわ」

「な、な、な、何だとこの女!」

「リベルラとやら、ガメーガンを倒してくれるんじゃな」


 ギルド長が尋ねてきた。


「あん!? ギルド長、てめぇ何やってんだ!?」

「リベルラさん、我らの街をお救い下さい」


 と膝行して僕に詰め寄ってくる。


 ロザリンドさんが僕に向いて、


「どうしました、リベルラ様? 早く助けてやるから安心せい、と言ってあげてくださいませ」

「いや……」


 困ったな。いまいち自信がないんだよな。炎竜を倒した一回しか経験がないんだもの……。


「リベルラ様?」

「ええ、そうですね。今度こそ、大丈夫なんですよね?」

「何言ってんだロッサ、ひっこんでろ!」

「てめぇが引っ込んでろ!」

「えっ?」


 ギルド長がマンヒの胸ぐらを掴み怒鳴った。


「今すぐ、こいつのパーティから離脱処理をしましょう」


 そう言って目をつむる。


 途端、ギルド長の前に青い色のステータス表みたいなのが現れた。


「これが、ギルドの管理表じゃ。あまり中は見ないように。罰が下るぞい」


 ギルド長が、表をいじくりながら覗き込もうとしていたロザリンドさんを制止する。


「ギルド長の特権を利用しますじゃっ。ポチっとすれば、すぐできます……と、言ってる間に、よし、これで、完了じゃ!」


 ギルド長が叫び、青い色のギルドの管理表が消えた。

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