僕が魔族の指導者!?
「……おはようございます……」
ゆっくり唇を放し、とりあえずそう言った。
上体を起こし、ひじ掛けに掴まりながら女性から離れる。その間、女性は無言でまっすぐ僕を見続けていた。
ふいに女性が微笑み、
「ずっと、ずっと、お待ちしておりました」
「え?」
「今は、神歴何年でございますか?」
尋ねながら、女性は玉座に座りなおした。
「1809年です……」
「……では102年もの間、眠っていたのでございますね……」
100年眠っていた? ……この人、なんなんだ?
「神聖戦争はどうなりました?」
「神聖戦争……?」
そうか100年眠っていたから知らないんだ。神聖戦争の結末。
「嵐魔王は天帝ヒカ―様によって倒されましたよ」
「では、魔族は?」
「魔族、ですか? ああ……ジェノサイドされましたが、運よく生き残ったのがいて、姿を隠し人間の世界に溶け込んで生活してるみたいです」
「……やはり、そうなりましたか……あれ?」
女性が僕を心配そうな目で見てきた。
「あの……ずいぶん体力がなくなっているようですが……ああっ炎竜との戦いで負傷をなすったのでございますね」
立ち上がり、ふらふらの僕の体を支えにきてくれる。
「ああ……」
ぽげーッと、女性を見てしまった。
不思議に思ってしまった。女性はすごく心配そうな眼をして、僕を見ているからだ。
……初めてだな、負傷して、こんな心配する目を向けられたのって……。パーティにいる間は、そんな事……。
「お召し物もお汚くなって……? 1029? これは、囚人服?」
「炎竜って? なんですかそれ?」
「? 炎竜は、この炎の洞窟を守る竜の名前でございますが……倒して参られたのでございましょう?」
僕は困った顔をするしかない。てか、ここは炎の洞窟って場所だったのか。聞いたことないな、どこだろう。
「では、どうやってここまで来られたのですかっ?」
「え? いえ、魔導装置で……多分、ここに飛ばされて、しまったんです。で……何だかんだあって、HPが1、になっております……」
「? それはどういう……」
女性が難しい顔をして、人差し指をほっぺに当て首をひねった。右上を見て考え込んでいるようだ。
「あのつまり――ゲホッ! ゲホッ! ああっ……」
足がふらつく……。くそっ体の限界が近いぞ……。
「指導者様、今すぐ回復いたします 失礼いたします!」
女性が、右掌をやさしく心臓部分に押し当てた。
「デビール・ヒーリング!」
女性の手が怪しく光る。同時に心臓部分が温かくなってきた。熱いお茶を飲んだ時みたいにお腹の中が温かくなる。そこからだんだんと、体中が、全体が熱くなってきた。
体から痛みや疲労、全てがどんどん無くなっていく!
「完了でございます、もう大丈夫と存じます!」
女性が力強く微笑んだ。
目を閉じ、ステータスを確認する。たしかにHPは全快していた。
その場でジャンプする。……ぴょんぴょんと撥ねることもできるようになっている。
しかし、なにやった? ……デビール・ヒーリング?
「何はともあれ、我らが指導者よ。その御名を教えていただきたく存じます」
指導者……?
「リベルラ・ロッサ……と申します……」
呆気に取られたまま、そう言う。
「では妾も。ご存じとはお思いですがあらためまして、嵐魔王ガンガの娘、ロザリンドと申します」
目を閉じ唇を一文字に結び、厳しく凛々しい表情で、僕に軽く会釈した。
……。
……なんだってぇぇぇぇぇぇぇ! 魔族!? 魔王!? 姫ぇ!?
「予言通り、妾を眠りから起こした新たな指導者リベルラ様。さぁ魔族の指導者として、共に人間に戦いを挑みましょう! お父様の仇も打つのです!」
何言ってんだ? てか、やばい。やばいやばいやばいやばいっ。
「ジェノサイドで生き延びた同胞と再び結集し、我らが魔族の悲願、この世界を我ら魔族のものに!」
女性が、力強く拳を天に突き上げた。僕はびっくりして体を90度反らして仰け反る。
僕を指導者なんて……。ひとりで勝手に間違えて、話をどんどん進めている……。
予言ってなんだよ、早く誤解を解かないと。
……でも待てよ……ホントのこと言ったら何かされるかな。魔族の姫か……さっきのスキルと言い、戦いになったら負けそうだな僕じゃ。どうしよう……。
「とりあえずリベルラ様のステータスを確認いたします」
「えっ!? やめてっ!?」
ステータスなんて確認されたらっ!
「どのような何の能力に優れているか、何のスキルをお持ちかで、これからの作戦も変わってきます。妾はリベルラ様の妻としてやっていけるように、確認したく存じます」
「妻!?」
「スキル発動、デビール・アイ!」
「うわっ」
女性が手で眼鏡を作り叫んだ。その美しい両瞳から放射状に怪しい光が放出され僕の体に照射される。
いきなりで逃れられなかった。
僕のステータスが空中に表示され、それを女性が見つめる。
「……、……はああああああああああああああああああ!?」
しばしの沈黙の後、叫び声をあげた。
「さて、と」
僕は踵を返し、
「元気になったし僕は帰ります、おつかれさまでした」
と言って立ち去る。
「低すぎる! リベルラ様、この低いステータスはいったいどういうことでしょうか!?」
襟首を鷲掴みしてきて、僕を引き戻し尋ねてきた。
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