裏ステータス?


「……いや、なんでだったっけな……」


 首をひねって僕もわからないふりをする。


「だいたい人間族!? 自分、魔族ちゃうんかいな!? 一体どうなってますのんや!? しかも露出で捕まってるヘンタイやんけ!?」


 丁寧な標準語だった女性が、パニックになったからか、コテコテの魔界弁になって叫びだした。……一体どういう事なんだ、はこっちのセリフでもあるんだけどなぁ……。


「だいたい炎竜をどう倒し……って自分、「なにそれ?」 とか言うてましたなぁぁぁぁ!?」

「……あの、落ち着いて……ください」

「こっこりゃ一体!? 分けが分かりまへん! いんや、予言が間違ごうとるはずおまへん! 何かあるはずや!」


 女性が居ても立っても居られなくなったのか、反復横跳びを始めた。


 やばいなこの人、ほっといたら危険だぞ。でも、どうしたもんかな……もう正直に言った方が……。


「あっそうや、わかったで! 裏ステータスの方でっしゃろ!」


 パンッと、急に手を叩いて安心した顔になる。


 忙しい人だなぁ……って裏ステータス? 


「存在を忘れておりました。さっそく確認してみますね。スキル発動、デビール・アイ!」


 標準語に戻り、落ち着いた様子で、手で眼鏡を作り叫ぶ。僕のステータス表示が変わり、その画面を見つめ始めた。


「……」


 そして、またも見つめながら沈黙する。僕は踵を返し、今度こそ立ち去ろうとした、その時、


「このロザリンド、大うつけ者でございました……。やはり予言通り、リベルラ様が我らが指導者。しかも、なんと運命じみたことでしょう。お父様を苦しめた、このスキルを持っていようとは……」


 僕のステータスに釘付けになりながら言った。


「前科も、天帝陛下に対する侮辱があるところを見ると、つまり人間族でありながら魔族の味方というわけでございますね。とんだ失礼をしてしまいました、リベルラ様」


 すっとこちらに振り向き、深々と頭を下げてくる。

 

 ……どういうことだ?


 空中に浮かんだ、自分のステータスをのぞき込む。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

     リベルラ・ロッサ  童貞

 


 感受 :8

 器用 :0

 集中 :9

 魅力 :2

 気力 :3

 運  :3


 所持スキル:【覇王の紋章】


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 これが裏ステータス?


 見たことない項目が並んでる……。しかも、どれも低くないか? こんなもんなのか? 基準がわからないから何とも言えない……。


 ん? なんだ? 所持スキルになんかある……おかしいな、僕はスキル非所持だったはず……。


――てっ童貞なの書いてあるじゃないか……。


 ……でもそんな事より今は、 


「……あ、あの、このスキルの項目、なんかあるんですが、何ですかこれ?」


 僕は【覇王の紋章】と記されている項目を凝視しながら尋ねた。


「? リベルラ様がなぜ、ご存じないのですか?」


 首をひねって尋ねてくる。


「……知らないものは知らないのです」

「……? ああっなるほど、わかりましたよリベルラ様、もしや今まで冒険や、モンスターなどと戦ったことがないのではありませんかっ?」

「え?」


 女性は手を叩き、明るい顔になって僕を見つめ、答えを待っていた。


「……はい」


 ……話を合わせてしまった……。


「やはりそうでしたかっ。それはもったいない事をいたしておりましたよ。リベルラ様が冒険者などになろうものなら、すぐに天帝候補になっていた事でしょうに」

「そんな訳ないでしょうっ」


 鼻で笑う。こっちはなんの才能もなく、さっきやめた所なんだ。


「ほほほ、では説明いたします。【覇王の紋章】……これは特級クラス中の特級クラススキルでございます」


 強い眼力で、僕を見つめて言ってくる。本当に言ってるのか、この魔族……。


「……一体、どんなスキル何ですか?」

「覇王の紋章、それは天帝ヒカーが持っていたスキルでございます。いろんなバフが付く、それはもうお得な常時発動スキルでございます」

「お得って……」

「ああ憎いっ、ヒョロガリハゲ野郎も持っておりましたゆえ、お父様がどんなに苦しめられていたか……ああ、妾にとって、魔族にとってそれは憎いスキルでございますとも!」


 先代天帝の事をヒョロガリハゲ呼ばわりしたぞ、恐れ多いっ。


「あのっ、バフとはどんなものを、何%くらいアップするんですか?」

「あのハゲ同様、【覇王の紋章】の効果はまず、その歪なほどのバフの多さと強力さにあります。何%くらいアップどころの騒ぎではございません。攻撃力倍増、素早さ倍増、という、単純明快なバフが戦闘時補正でかかります」

「ん? それってマンヒと同じ……」

「どういたしました?」

「いや、なんでも」

「ついで、受ダメージ一定数無効、無効ダメージ分反射、全状態異常に対しての耐性が、常時補正でリベルラ様にはかかっております」


 ……それも全部マンヒと同じじゃないか……。


「それ以外では、レアアイテムドロップ率、発見率アップに、トラップ回避補正がかかっております。……とまぁ、これで全部でございます」

「ねぇ、なんでわかるんですか? ボファルで見られるのは所持スキル名のみ、じゃないの?」

「普通の魔力では、ポファルで見られるのは所持スキル名のみでございましょうが、妾は違います。その効果の詳細まで見ることができるのでございますよっ」


 腰に手を当て、胸を張り、


「ふふんっ」


 鼻息を荒くした。


「そうなんですか……」

「別格でございます。スキル名から推測して戦わなくてはならない無能共とは違います、なんてったって魔王の娘でございますよっ」

「うーん……」

「というわけで、予言通りリベルラ様は我らの指導者にふさわしいのでございます! そして、夫としても……ふさわしい、のでございます……きゃっ妾ったら」

「うーん……でも変だなぁ……」

「あれ……どういたしました? さきほどから神妙な顔つき……。……まさか、リベルラ様も、お手洗いでございますか?」


 なんか、全部マンヒの【盗賊の極意】スキルの効果と一緒なんだよな……。どういうことだ?


「では早速、今から炎竜を倒しに参りましょう!」

「えぇっ!?」


 急に力強く拳を天に突き上げた。

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