<サイド・ストーリー> 一方その頃、マンヒ・パーティは①
王都を襲ったゲリラ嵐が過ぎ去り、翌日、快晴となった気持ちの良い空の下。
王都、冒険者ギルド前――。
「やれやれ、まだ仮状態とはよ!」
マンヒは馬車のソファに座り、流れる王都の景色を見ながらワインを飲んだ。
「めんどくせー! メンバー除名の手続きがこんなにめんどくせーとはよ!」
マンヒは今しがた、パーティ・メンバーだったリベルラ・ロッサの除名手続きをしてきた。
しかしまだ「仮」バーティ状態で、除名手続きのためにもう一度、ギルドへと足を運ばなければいけない事に腹を立てている。自分から出ていくのでなければ、冒険者生活保護制度が働き、除名が難しくなるのである。
「くくく、しかしよ。あいつ、今頃みじめに牢屋で臭い飯食ってるぜ! わははは」
「いい気味だよね!」
マンヒに肩を抱かれている女武闘家のノーノが相槌を打った
「そうだ、良いんだあんな奴。聞けば天帝侮辱罪も課されて数十年は出れないとよ。わはははははっ」
「きゃはははははっ」
「ははははははっ、僕の考えは最高だったでしょ」
向かいに座っている魔法使いのスコットが、満面の笑みを浮かべる。
「おうよ、俺を侮辱したと言って、天帝侮辱罪を与えるよう言ったのは、さすがの知識だぜ」
「ふふふ、法律も勉強しているものでね」
スコットが三角帽を深めにかぶって、照れ笑いをした。
「でも、ノーノもよくやったぜ。あのバカが裸で出てった時、すかさず警備兵を呼んだもんな、お前」
「当たり前じゃーん、無能の変態なんて街から消さないとねっ」
ノーノが、動きやすい薄着で露出された巨乳をわざと揺らし、マンヒに当てる
「違いねぇ、ああいう無能は牢屋で隔離が好ましいっ。わはははははっ」
「きゃはははははっ」
「はははははははっ」
馬車に乗ったマンヒ・パーティのメンバーが一緒になって笑い声をあげる。
「無能のリベルラ・ロッサがいなくなったことは、体に付着した汚物がなくなったと、同じだ。今日は宿屋でパーティしようぜぇ!」
「わーい、やろーやろー」
「……けれどマンヒ様、なぜにあんなのをすぐに追放しなかったのですか?」
「あん?」
質問にマンヒは天井を見上げた。
「パパが絶対、何があってもパーティに入れろと言ってきてな。嫌だったけどよ。たくっ」
「何よそれぇ?」
「あの野郎は幼馴染でよ、そういう事だろうよ」
マンヒはモヒカンを気にして櫛でとき始めた。櫛を指でくるっと回し、
「しかし、もう天帝特別指定冒険者。10代にして星一つ冒険者となった俺だ。もうパパの言いなりにはならねぇ」
そう言って、胸ポケットにしまう。
「きゃあっカッコいい!」
「マンヒ様、それより、次はどのダンジョンに行こうか、あ~あ」
スコットが、だるそうにあくびをし、
「僕らに休んでる暇なんてないはずです」
きりっとした目でマンヒを見つめる。
「おう、そうだぜ。レアアイテムをゲットしなくちゃな!」
「ロッサが居ないから、今まで以上にスムーズにいくでしょうしね」
「マンヒ様のパーティにあんな奴がいるなんて、とんでもないことだったよねぇ」
メンバーが顔を合わせた。皆が微笑みあう。マンヒはバシッと胸を叩いて、
「もっと俺の名を世界中に轟かしてやる!」
高らかに宣言した。
「そうですよマンヒ様、素敵っ」
「俺は……」
そして、マンヒは重々しく言った。
「天帝になるんだ……そのためには、もっと冒険者として名を上げ、世界の未知を明らかにし、レアアイテムを発見し、社会に貢献しなくちゃならねぇ」
「マンヒ様の【盗賊の極意 】があれば天帝にだってなれるよっ」
「僕の模試99位の頭脳も、マンヒ様のために使わしていただきますよ」
「今は新人で一つ星だが、五つ星の次期天帝候補となってる冒険者は今だ0だ。俺が一番乗りするぜ!」
マンヒがパーティメンバーの顔を見渡し、力強く拳を掲げる。
「皆、俺についてこい!」
「うんっマンヒ様!」
「ついていきますとも!」
2人が諸声になって返事をした。
「ふふふ、よし皆、今度は行ったことのない『怨竜の洞窟』というところの迷宮に行くぞぉ」
マンヒが微笑む。
「どこなの、そこ?」
「国を出て、ヤーゴナ国の北の高野地帯だ。ここから馬車で15日というところか」
「なんで、そんな遠い『炎竜の洞窟』ってところに行くのよ?」
ノーノの間違いに、マンヒは笑った。
「馬鹿、行くのは『炎竜の洞窟』じゃねぇ『怨竜』」
「どっちだってイイじゃんか」
「ふふふ、月とスッポンポン母ちゃんくらい違いますよ」
「何よスコットっ」
マンヒはもう一度モヒカンに櫛でとき始める。
「炎竜ってのはな。東海砂漠に入ったところにあるS級モンスターのことだ。炎竜が相手では、いくら俺でもかなわねぇ」
「S級、倒せる者は世界にいない時に使われる階級ですね」
「いちいち言わなくても知ってるよ、スコットの知識のひけらかし、ノーノ嫌いっ」
ノーノはスコットにイーッと歯を見せた。
「でもマンヒ様、『怨竜の洞窟』には怨竜がいるんじゃないの?」
「わははは。怨竜は名前だけで、そんなドラゴンはいない。で本題だ。その『怨竜の洞窟』に迷宮ダンジョンが発見されたらしいんだ。ランダム生成らしい」
「……ランダム生成ということは時間が経つごとに迷宮は変化するんですね……」
「さっきギルドの張り紙で見たんだ。すぐに形状が変化し、誰も攻略できてない。そこを俺たちマンヒ・パーティが攻略する!」
スコットが深くうなづいた。
「なるほど、初攻略の功績と、まだ手を付けられてない領域にあるレアアイテム。同時に手に入るという事ですね」
「ついでに何本もの触手を持った追剥モンスターまで出るらしい」
「そのモンスターが奪ったアイテムも手に入る、と」
「そうだ。3つのお得だぜ」
「きゃあっ賢い、さっすがマンヒ様っ」
「わははは、今度もやるぞ!」
マンヒはワインを一気飲みし、自分のこれからを祝福した。パーティメンバーのノーノとスコットも続けて乾杯し、飲み干した。
自分たちに起こっている悲劇には、露程も気付かずに……。
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