無能の僕は、実験台に……

「というわけです、警備兵さん……」


 小さな机と燈台に明かりがひとつ。窓は小さく、もし昼でもそんなに役には立てないだろう。無機質なレンガと漆喰でできた壁が、僕と、向かえに座っている警備兵を囲っている。


 僕はパーティを追放され、装備を返すのを強要された経緯を、昔話までしながら、なぜ全裸だったかを、全裸のまま説明した。


 警備兵は服もくれないのだ。


「ああ、そうなのか……しかし全裸で街中を歩くなんて……ふんっ、そんなことだから、いじめられるし、追放もされるんだぞ」


 警備兵のおっさんが呆れたようにため息をつく。


「……いえ、違うんです」

「なんだ? こういう理由だから大目に見てほしいとでも? そんなことできるわけないだろう、裸で歩いたには違いないんだから」

「……はい」

「マンヒ・パーティってあの天帝特別指定冒険者に選ばれた、新人だったよな、一つ星の。だいたいどうして入れてもらっていたんだ、君のこの低いステータスで……」


 警備兵のおっさんは、ポファル(分析魔法)で空中に浮かばせた僕のステータスを、ちらちらと見る。


「ちょっと見て見なさい、自分のステータスを、ほら」

「えっ……」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

    リベルラ・ロッサ


 神歴1791年、初夏の生まれ  18才  人間族  男


 LV:18

 HP :101(101)

 MP : 12( 12)

 攻撃力:  1

 防御力:  3

 素早さ:  1

 魔力 :  4

 所持スキル:なし


 身長 :163ゼンジ

 体重 : 58ギロロ

 属性 :雷


 所属パーティ:マーベラス・マンヒ・パーティ

 前科:なし

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「なっ酷いだろ?」

「はい……」


 わかってますよっいつでも見れるんだから、そんなもん……。


 でも僕は初夏の生まれだったのか、属性は雷か。普段見れない部分が見れるのは、さすが警備兵の魔力で唱えたポファルだなぁ。


「スキルなしで、これだけ低いとはすごいな、逆に……」

「はい……」

「引き取ってくれるパーティーなんてないぞ、君なんて。全快でHP:101ってなんだこれ、5才児並みじゃないか、ぷぷぷ」

「……はい」


 ……うるさいなァ。


「老婆心から言うぞ。君の能力では冒険者は無理だ。だいたい立ち仕事もできないだろ、このステータスじゃ」


 できるわッ。なんだこいつ、説教はもう良いよ、早く罰金払って帰らせろッ。


「まっ、法律で君は禁固刑50年だから。丁度良い、牢の中でよくよく考えることだな」


 ……耳を疑った。


「えっ50年!? なんですかそれ!?」


 身を乗り出して聞き返す。


「マンヒパーティさんが、自分のパーティの名誉を傷つけたとして訴えて来たよ。当たり前だけど、それはそうだよね。で、名誉棄損罪も上乗せね、天帝特別指定冒険者のマンヒさんだから、それはつまり天帝陛下の名まで汚したということだから、天裁所は禁固刑50年と下したよ」

「そんなっ!? だいたい僕は追放されているんですよっ!?」

「君はまだマンヒさんのパーティの一員なんだ。メンバー除名の正式な手続きを経てないからね。だから露出と名誉棄損と天帝陛下に対する侮辱の罪で、禁固50年」


 僕は言葉を失った。


「じゃ、牢屋の方へ移送するから、立って」


 1029と書かれた、しましま模様の囚人服を着せられ、牢屋に入れられる。


 ……王都警備局地下にある牢は、全く光がなかった。


 ……じめじめとして、地下水道の臭いに満ちていた。


 ……僕は1029番という名前になった。


 ……牢屋内には、便所とボロ布が一枚だけがあった。


 多分、この茶色い布に包まって寝るのだ……。……こんなところで50年も?


 ……僕が悪いのか?


 僕は壁を向いて寝ころんで考えた。


 ムキになってハダカで飛び出すんじゃなかった……。


 マンヒ達に頭を下げて許してもら……いや! ダメだダメだダメだ! そんな事だけはしたくない!


「――1029番!」


 その時、看守さんが監視室から僕の名前を呼んだ。


「魔法通信で、貴様の両親から掛かって来たぞ。今から出すから鉄格子の前に起立していろ」


「へ!? 親から!?」


 心配して掛けてきたんだろうか? まさか保釈金制度を!? やった! すぐに帰れるかも!


「もっもしもし?」


 看守に監視されながら、僕は魔通の受話器を取る。


「ロッサか?」


 父の声だ。


「うん、そうだよ父さん」


 その懐かしい声に、泣きそうになってしまう。


「お前、街中をハダカで歩き回り性欲を満たしていたのがバレて、マンヒさんからパーティを追放されたそうだな」

「へ?」

「クズ野郎め! 無能だと思っていたがここまでとは! 父さんが幼馴染の縁だからとお願いしてパーティに入れてもらえるようにしたというのに! お前というやつはもう二度と帰ってくるなっ勘当だ!」

「ちょっと待って父さん、違――」

「――ロッサ!?ロッサね!?」


 声が母に変わった。


「ああ、母さん聞いて違――」

「お父さんの言っていることはわかったわね! もう家族に迷惑をかけないで! お前みたいなののせいでラーパが結婚出来なくなったらどうするの!」

「えっいや、あのっだから違――」

「――お兄ちゃん!?」

「おっラーパか、ちょっと聞いてくれ、誤解し――」

「黙れ! このクソ無能野郎が! 私達のマンヒ様に恥をかかすなんてっ! お前はそこで野垂れ死ねぇ!」


 ツーツー。


 ……それっきり受話器からは通信が切れた音だけがした。


「終わったか?」


 看守が僕の手から受話器を取り上げ、元の位置に荒々しく戻す。


「まったくこんな親不孝者を持つと親も大変だ……さっ1029番、突っ立ってないで牢に戻るぞ」


――プルルルルルル


 魔通のベルが鳴った。


「なんだまたか、どこからだ?」


 看守が受話器を取る。


「はい、あっ署長。ご苦労様です。はい、はい、えっ? 新しく入った……はい……」


 看守が僕を見た。


 ……なんだ?


「1029番を、はい、2日後、西武要塞で、……はい、ええ……、はい、ポファルの機械ですね、ええ、かしこまりました」


 看守は受話器を置くと、


「お前、刑期が短くなる恩恵がもらえる人体実験に参加したいか?」

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