英雄は街を救う 『対ガメーガン討伐戦、終結』①


 これで晴れてマンヒのパーティではなくなった、らしい。


「ガメアアァァアァ!」


 ドスンと地響きがした。むせかえるほどの熱風がともに吹いてくる。


 振り返ると、そこにガメーガンの巨大な顔があった。


 こいつの鼻息が、突風をビュンビュン吹き付けている。


 こんな近くまで来てしまったのか……。


 ギルド長の指揮していた場所は、陣営の最後尾。すぐ後ろはラクマカの大城壁だ。


 ガメーガンは、もうあと一歩進めば壁を破壊し街を踏みつぶせる。


「ふんばれぇぇぇ!」

「街に行かせるなぁぁ!」


 冒険者達も最後尾のここまで引き返してきた。


「皆、踏ん張るんじゃ。まだ壁がある。隙をついてガメーガンを攻撃じゃ」


 ギルド長が拡声魔法を使い、大音量の声で全軍に伝える。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 冒険者達が雄叫びで答えた。ギルド長も杖を構え、魔法攻撃の準備をする。


 ガメーガンの激しい攻撃に散り散りになりながらも、冒険者達はなおも武器を向け戦おうとしていた。


「マンヒ様、助けてください!」

「マンヒ殿がたよりです!」


 冒険者達が、マンヒの元に集まる


 がマンヒは後ずさりし始めた。


「は、早く逃げなくては」


 そう呟いている。


「なッ何を言います、戦ってください!」

「ふざけんな、こんなところで死ねるかよ!」


 マンヒの怒号が飛ぶ。


「ガメェェェェェェアアァァアァァァァァ!」


 ガメーガンが、大きく足を曲げた。


 まさか? やばいやばいやばい!


「ガギャガグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 ガメーガンが咆哮し、そしてあの巨体が、信じられない事に、飛んだ。


 嘘だろ……。


 しばらくの空中浮遊ののち、地面に着地する。


 と共に大地が鳴動し、地割れが起こった。一方で隆起し一方で陥没する地面に、僕も冒険者達も尻餅ついた。風圧で吹っ飛ばされた人もいる。


「ガギャガグオオオオオオオオオオオオ!」


 ガメーガンは、休む間もなく右脚を持ち上げた。


 ――やばい! このままでは壁ごと踏みつぶす気だ!


「リベルラ様、いってらっしゃいませ」


 ファイティングポーズを取りながら、ロザリンドさんが言ってきた。


「う、うん……」


 あんまり自信ないけど、もう迷ってる場合じゃない。こんどこそうまく言ってくれよ!


 右脚が振り下ろされる。


 力任せに飛び上がり、


「おらぁっ!」


 振り下ろしてくる足の裏に、飛び蹴りを食らわした。


――すってんころりん。


 ガメーガンの巨体が転ぶ。


 その大衝撃で大地が鳴動し、さっきよりも大規模な地割れが起こった。一方で隆起し一方で陥没する地面に、


「ぎゃああぅぁぁぁぁ!」

「脚がぁぁぁ、今ので怪我した痛いぃぃぃぃぃぃ!」


 冒険者達が次々に悲鳴を上げた。


「皆ごめんっ、こんなつもりじゃ……」


 僕は体に宿ったバフを肌で感じていた。


 今度こそ間違いなく、覇王の紋章の効果が出ている。


「え? 何今の?」

「す、すげぇ……」

「あのガメーガンが一撃で!?」


 周りにいた冒険者達が呆気に取られていた。


「見ろよ。わははははっ、ガメーガンが転んだぞ! わははははっ」

「おお、やった! 痛がってるぞ!」


 皆が仰ぎ見ている方を、僕も見たら、ガメーガンが苦悶の表情を浮かべて痛がっている。


「おいあんた!よくやった! でもどこの誰だ?」

「どこのパーティだ、見たことないが……」

「リベルラです。あの、こいつの相手は僕がします」

「へ? お前いったい何言って――」

「――グガメアアァァァァアァァァァァァァァァァアァ!」


 ガメーガンが起き上がり叫び声をあげた。どうやら戦意を取り戻したらしい。……ついでにめちゃくちゃ怒こっている。


「見ろ、左右からモンスター達が!」

「上からもだ!」


 皆があちこちを指さし叫ぶ。


「ガメーガンの叫びに呼応して、使役するモンスター達が一斉に集まってきたぞ!」

「気合を入れろ、皆!」


 冒険者達がおのおのの武器を構えた。両手が鋼鉄化したり、剣に気がまとったりと様々な戦闘スキルが発動される。


 ……よし、僕も行くぞ。


 ガメーガンの巨大な目は僕を睨みつけている。僕はそれを睨み返した。


 たしか、あの頭の上の小さな角が弱点だったよな……あそこをおもっきりぶっ叩くか。


 ぐっと握り拳を作る。


「ガアアァァアァ!」


 ん? 何の声だ? 


 気配を感じて素早く振り返ると緑の肌の巨人モンスター、オークが飛び掛かってきていた。太く逞しい腕で、巨大な斧を僕目掛け振り下ろしている。


 やばっ――


 僕はひょいっとかわして、握った拳でオークの方を殴った。


「ふぎゃあああぃぃぃあああいいいぁぁぁぁぁ!」


 オークが絶叫の悲鳴を上げ、空の彼方へと消えていく。


「え? だから何今の?」

「す、すげぇ……」

「あのオークが一撃で!?」

「ホントに何者なんだ! あんたは!?」


 周りの冒険者達が戸惑って僕を見だした。


「あなた、強いんですね!?」

「え? いえいえ、避けたために力が入らなかったパンチでしたが、十分だったみたいで良かったです」

「へ? お前いったい何言って――」

「――ガギャガグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 ガメーガンが雄たけびを上げ、炎の息を噴出し始めた。


 辺りからは、ガメーガンのピンチにオークの群れ、空からはキマイラの群れが襲い掛かってきている。


 でも、こいつらにかまってるところじゃない。


 早く親玉のガメーガンを倒さないとっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る