乙女はおしっこなどしないのでございます!


 滝のように流れ落ちてくる聖水に僕は飲み込まれた。


 しかし不思議な事に、水流が渦巻く水の中にいて、僕は平然と突っ立ってる……。水の抵抗を受けてる感覚が、ほぼない。


 【覇王の紋章】の効果だろうか。水が僕の体に当たるとそこで激しく渦を巻き出してる。


 受ダメージ下無効とダメージ反射の複合? まぁ、それより……。


 周りを見渡すと、クリスタルのあるこの場所は、聖水で満たされてしまったようだ。


 あっ! あんなところでロザリンドさんが漂ってる! 


 巻き込まれて落下してきたんだな。自分ので溺れ死ぬなんてっ、何としても防がなきゃ!


 ……せーのっ、えいや! 


 漂ってるロザリンドさん目掛け、泳いでいった。スキルの効果で、流れがある水の中でも難なく進む事ができる。


 よし捕まえた!


 流れに任されているロザリンドさんをキャッチする。


 大丈夫かと顔をのぞき込んだら、両手で口と鼻を抑えて苦しそうにしていた。僕も息が続くうちに、早くこの聖水から出ないとっ。


 がっちりロザリンドさんを抱き抱え、泳ぎ始める。


 上へ上へと上昇していった。


――バシャンッ


「おっと?」


 ふいに、水中から飛び出す。


 僕らは大きく息を吸い込んだ。大きく呼吸をする。


「はーはー、ちょっと飲んじゃった、大丈夫かな、ふー」

「助かりましたっ。お礼、申し上げ、ますっ、けほっけほっ」


 辺りを確認すると、洞窟はコップのようになったのだろう。聖水が溜まって、池みたいになっていた。


 淵の片一方には森が広がっている。反対側は砂漠だ。


 ちょっと待て。あれは、ラクマカの街の大城壁じゃないか。


 ということは、僕はヤーゴナ国に来てたのか。というと、ここは東海砂漠か。


 あれ? でもおかしいぞ。東海砂漠に森なんて……。


「リベルラ様!」


 急に呼ばれて振り向く。


「このっ、黄金色の生暖かい水はっ、まさかっ、あれではございませよね!?」

「……ロザリンドさんのじゃないんですか?」

「違います! 乙女はおしっこなどしないのでございます!」


 ……さっき、しに行ってたでしょうに……。


 訝しんでみる僕に、


「あ、あそこをご覧くださいませ」


 森を指さし、


「あそこでお花を摘んでおりましたら、急に穴から水が噴き出だしてきましたのでございます」


 やっぱ、してたんじゃないか……。


「なにやら、気分が悪うございます……」


 ロザリンドさんの顔が青ざめている。


「ステータスを確かめてみたらどうです」

「そうでございますね、よいしょっと」


 手で眼鏡を作って、


「……自分にデビール・アイ!」


 その両瞳から放射状に怪しい光が放出され、ステータス表が浮かびあがる。


 ぼくもちょっと覗き込んだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

    ロザリンド・ディズ・サオン  


 神歴1689年、初夏の生まれ  18才  魔族  女


 LV:18

 HP :1201(2101)

 MP : 413( 413)

 攻撃力:  30

 防御力:  35

 素早さ:  17

 魔力 : 416

 所持スキル:攻撃系【デビル・ビーム】 【デビル・チョップ】 

          【デビル・キック】

       補助系【デビル・アイ】【デビル・ウイング】 

       常時起動 【デビル・イヤー】 


 身長  :160ゼンジ

 体重 : 60ギロロ

 3サイズ:87− 60−88ゼンジ

 属性 :炎


 所属パーティ:なし

 前科:なし


 好きな食べ物:いちご、魔りんご、炙ったイカ。

 嫌いな食べ物:セロリ

 得意料理  :クリームパスタ

 趣味    :歌を歌うこと


 胸が大きくなり始めたのは10才の頃。「オッパイな、でかっ思うんや、なんや丸いゆうか、横にデカイなぁ張ってるまぁ、おもう」と悩みを父に相談した。父は「もうちょい、小そうてもええよな」と答えた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「HPが半分近く減ってるね」

「だからでございますわ、なんだか頭がクラクラ、体がフラフラいたします……」

「大丈夫ですか?」

「ええ、へっちゃらでございますともっ。これくらいどうということはありませんっ」


 ロザリンドさんはファイティングポーズを僕に取った。


 ……うーん、回復アイテムがあれば良いんだけれどな……。


「ガメェェェェェェェ!」


 その時、デカい雄叫びみたいなのが聞こえて来た。


「なんだ?」


 さっきもあったぞ、この声……何の声だ?


 と思うと、森の木々が動き出した。


 いや、木々どころじゃない、森が動いている!


「きゃあっ、何が起こってるのでございますか?」

「地盤が崩れたりしてるのかも、早く逃げるよ!」

「デビール・ウィング!」


 ロザリンドさんの背中が怪しい光に包まれ、骨と皮だけの黒い羽がビュンッと飛び出してきた。


「戦闘でないのでしたら、妾に、お掴まりくださいました方が宜しいと存じます」

「あの、どこに捕まれば宜しい?」

「ご、ご遠慮なさらずに……」


 両手を広げ、赤くなりながら僕を迎えてくきた。


 僕は正面から抱きついた。やっ柔らかぁ……。


 僕らはそのまま空高く上昇していく。


「下をご覧ください」

「な、森が動いてる!」

「あれは、ガメーガンかと存じます。魔界のモンスターでございます」


 上空まで来て、その巨体の全貌が明らかになった。


 森は、4本足の超巨大なモンスターの背中の甲羅の上にあるものだった。にゅるっと伸びた頭が、大口を開けて大あくびをしている。


「しかし、なんでこう高ランクのばっかり……」


 あ、これもロザリンドさんのためか?


「かわいいっ、寝ぼけてございます」


 かわいい?


 ロザリンドさんがガメーガンを見て、微笑んでる。


「そうでございます! ちゃんと起こしてあげましょう!」

「そんな事して良いん――」


 ロザリンドさんが、ガメーガンの頭の上にある小さな角に向かって急降下して、そのまますれ違いざまに、


「デビール・チョーップ!」


 そう叫んでフルスイングのチョップを振り下ろした。


「ガメェェェェェェェァァァァァァァ!!」


 ガメーガンが、ここ一番のとんでもないデカい叫び声をあげる。その巨体をブルブル震わせている。


「これで人間界を暴れまわってくれる事でしょう。おほほほほほ。あそこを刺激されると気性が激しくなるのでございます。まずは目の前の壁を壊して、人間共を踏みつぶしてくれたら宜しいのですが、ふふふ」


 何を笑って――そうだ……ロザリンドさんの目的は。ああ……まだその話が残ってるんだった。なんとかしないと……。

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