英雄は街を救う。


「うえーーーん! うえーーーーーん! うえーーーーーーーーーーん!」

「泣かないでください、責任は取ります」


 ロザリンドさんの背中を優しくさする。


「お前はうっさいっちゅーねん! うえーーーん!」


 ……しばらく、気持ちが落ち着くのを待つしかないかな……。


 しかし、泣くロザリンドさんが泣き終わるのを待っていたら、被害が増えてしまう。


 戦場を見れば、戦う冒険者の悲鳴が木霊していた。


 こちら側の軍はガメーガンにまったく歯が立ってない。どんどんガメーガンはラクマカの大城壁へと着々と迫っている。


 作戦はもう終わりじゃないのか、これ……。ちょっと目を離した隙にこんなことに……。


 ギルド長を見れば、 膝をついてうなだれてしまっている……。


「ギルド長!」


 泣いてるロザリンドさんは少し置いとこう。時は一刻を争う。僕はギルド長に駆け寄った。


「僕が倒してきます、A級モンスターだから楽勝ですから、多分。任してください」

「へぇあ?」


 僕の言葉に、ただ呆気にとられた顔で見上げてくる。


「だから……お前は何を……言っとるんじゃ……」

「今から行ってきますから、一応援護お願いしたいんです」

「ああ、はいはい……もう怒る気力もないわい、短い生涯じゃった。90年か……ひ孫の顔が見たかった……」


 もう放心状態だな……。この人にも構ってたら被害が増えてしまう。


「じゃ行ってきますね!」


 僕は飛び出した。


――瞬間、体が軽くなる。戦闘補正が付いたか?


 戦場が見渡せるここは戦場が遠い、一番後方だ。


 早く向かわないと!


 全力で地面を蹴った。最前線に向け飛ぶ。


 ぐぐぐっと踏み込んだ右足を蹴り上げ飛んだと同時に、猛烈な風が僕の体に吹きつけた。周りの景色が猛スピードで変わっていく。


 全力でジャンプした僕の体は空を飛んでいた。戦場を遥か下に見ながら最前線へ一直線に飛んでいく。


「ふんっ」


 両足に力を籠め、砂漠の砂の中、着地した。その衝撃で砂煙が周りに起こる。と、その砂煙が、突如発生した突風で吹き飛ばされていった。


 ガメーガンの巨大な顔がすぐそこにあった。こいつの鼻が、突風をビュンビュン吹き付けていたせいだ……。


 すごいな……一瞬で到達してしまった……。ジャンプ1回か……。て、

て、そんなことよりも、


 ガメーガンの大きな顔を見る。目だけでも、炎竜よりでかいや……。


「なっなんだこいつっ、どこから現れた!?」

「空だ、飛んで来たぞ!」

「何者だこいつ!」


 周りでモンスターの群れと戦っている冒険者達が僕を見てざわつく。


 ……よし、行くぞ。


 ガメーガンの巨大な目は僕を睨みつけている。それを睨み返した。


 たしか、あの頭の上の小さな角が弱点だったよな……あそこをおもっきりぶっ叩くか。


 ぐっと握り拳を作る。今度も一撃で決める。


「ガアアァァアァ!」


 ん? 何の声だ!? 


 気配を感じて素早く振り返るとゴブリンが飛び掛かってきていた。大きなこん棒を僕目掛け、振り下ろしている。


 僕はひょいっとかわして、握った拳でゴブリンの方を全力で殴った。


――グキッ


 殴った右手首が嫌な音を立てる。


「あっ痛ぁぁ!」


 くじいた右手を持って、痛みに足をパタパタさせる。殴ったゴブリンはピンピンしてる。


 そのゴブリンが、チャンスとばかりにこん棒で殴りかかってきた。


「ぐわぁぁぁぁ!」


 側頭部を直撃したゴブリンの攻撃で、頭から血が噴き出した。体中に衝撃が走り、クラクラしだす。


 ……足に……力が、入らな……。


 僕は、その場に倒れてしまった。起き上がることもままならない。


「な、なんだあいつ、ゴブリンなんかにやられてるぞ」

「使役モンスターでも、最弱にあれって」

「で、結局誰なんだ、あのバカ」


 周りでモンスターの群れと戦っている冒険者達が僕を見てざわついてた。


「ガメアアァァアァ! グアアァァァァ!ッ」


 ガメーガンが、その大きな口をガバッと開けた。示し合わせたように、近くのモンスターが全員離れていく。 


「うわぁぁぁ! 来るぞぉ!」

「逃げろおぉぉ! 食われるぞぉおお!」

「いきなり現れたお前、危ないぞぉ!」


 周りの冒険者も一斉に逃げ出していった。


「ガメアアァァァァァァアァ」


 雄叫びと共にガメーガンの大口が、生えそろった鋭い牙が、真っ赤な口内が迫る。


「ダメだぁ! もう間に合わない!」

「くそっ、ガメーガンの弱点の角までもう少しだったのにぃ!」

「ここで食われちまうのかぁ!」


 開いた大口は、僕含めここらの冒険者達を丸のみにする気らしい。冒険者達の逃げるスピードを考えると、到底、間に合わない。


 無論、倒れている僕は全く間に合わない。


 なぜだ? 【覇王の紋章】はどうなった? 僕は死ぬのか?


「大丈夫か、皆!」


 聞きなれた声が響く。愕然として声のする方を向くと、やはりマンヒがいた。


 マンヒはジャンプし、迫りくる口へと自分から入っていく。


「ああっ、あいつ何やってんだ!?」

「自分から飛び込んでったぞ!」

「ああっ見ろ! 口の中に入った!」


 マンヒはガメーガンの口内に着地する。


「ガメアアァァァァァァアァ!」


 飛び込んできたのを、幸いにと思ったのか、はたまた驚いたのか。ガメーガンは口を勢い良く閉じた。

 

 マンヒの体が、牙でガッシリ噛まれる。


「ギャメアアァァァァァァァァァァァッ!」


 大悲鳴と共に、ガメーガンが口を開いた。マンヒを噛んだ歯が粉砕している。


 ガメーガンがたまらず後退していっていた。

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