リベルラ様、責任を取ってもらいます!
「……どこだ、ここ……?」
……ギルドの病院の、ベッドか……?
目を開けると、僕はベッドに寝ていた。病衣を着てる。
「う、うぅぅっ……」
頭が痛い。ズキズキ痛む。頭を触ると包帯が巻かれていた。
周りを見ると、広いフロアに何十台ものベッドが並んでいる。僕と同じく包帯を巻かれた人達が一杯寝ていた。
戦傷者達と一緒に、僕は治療を受けたらしいな……。
窓辺のベッドに寝かされていた。外は……なんだこれ、朝日か? ガメーガンの巨体も見える。なんかガメーガンが足をバタバタさせている……。
「……僕は、たしか……ゴブリンにやられて……」
頭の包帯をさする。
「……すいませーん……」
近くを通りがかった、白いエプロンと帽子のおばさんを呼ぶ。
「気が付きましたか、気分はどうです? HPは全快しましたけど気絶したままだったので、バーティメンバーの方が心配してましたよ」
看護人さんは、僕の様子を確かめるように体全体を眺めていた。
「ダイジョブです……僕は運ばれて?」
「そうです、昨日からずっと寝っぱなしだったんですよ。待っていてください。メーガンへの再攻撃間近ですけど、パーティメンバーの方から、気が付いたらすぐに呼んでって頼まれてるんです。あなたのパーティのおかげで助かりそうで良かった。今すぐ呼んできますね」
看護人さんが去って行く。
……パーティメンバー……ロザリンドさんの事かな。痛てて。頭がズキズキ痛む。
「くそっ……覇王の紋章はどうしたんだよ、なんで……。あと……そうだっ、マンヒ。マンヒを噛んだガメーガンの歯が砕けたぞっ」
窓の外を見る。ガメーガンの巨体は、まったく動かずじっとしていた。
「マンヒはあんなには強くない……一体どうなって……――」
「――リベルラ様っ」
聞きなれた声がして、振り向くと、
「ロザリンドさん……」
ロザリンドさんは暗い顔をしてそこに立っていた。
濡れた服から着替えていて、ガードルで腰の周りで締められた灰色の服に、体全体を覆うショールを肩から掛けている。安物の服だ。ギルドで貰ったんだろう……。
「妾……考えました……これからの事……」
うつむいたまま、それだけボソッと言った。そして、それきり急に黙り込む。
……僕が指導者でないとか、言った話だろうか……。
しぱらく言いよどんだ後、
「……リベルラ様、ホントに妾のために、何でもいたして……くれるので、ございますよね?」
バッとこっちを向いて尋ねてくる、その顔に元気はない。が、燃えるものを目に宿していたように見えて、ちょっとたじろいでしまった。
「僕にできる事なら何でもします……だから気を落とさないでください。もう魔族とかにこだわるのはやめて新しい時代を生きましょう」
「妾、これからの事を考え……そして、決めました……」
「何を、ですか?」
ロザリンドさんがベッドの上に上がってくる。
「な、何を!?」
そのまま寝ている僕に馬乗りになって、白くて細い手で、抵抗しようとする僕の手を強く握ってきた。
顔をグッと近づけ、僕の耳元で、
「我ら魔族は人間どもに駆逐され……身を隠し、毎日を怯え暮らしていることでしょう。きっと平安な生活を、送りたいと願っていることでしょう」
ゆっくりな口調で囁いてくる。
「……そうでしょうね……あの、魔族の話をするからといって、こんな形でコソコソ話は、かえって……」
周りのケガ人たちが、いやらしい目やうらやましい目や汚らわしい目で見てきていた。
「リベルラ様、その同胞達に助けが必要でございます。そのために、妾の考えた作戦をお聞きくださいっ」
「……作……戦……?」
「まず、ギルドへ行って冒険者登録をします。そして妾もリベルラ・パーティとして支えます」
「……魔族だから無理ですよ」
僕の反論に、
「なっなんやて? あー……しもたぁ……」
ロザリンドさんは口を手で押さえ、
「コホンッ……では、リベルラ様おひとりで登録なさり、妾は身を隠しながらお支えいたします。世界を冒険し、その未知を明らかにして、レアアイテムを発見して、社会を豊かにして、成り上がりましょう」
「……そんなことして、どうするんですか? 普通に魔族の人を助ける活動で良いんじゃ……」
「それは同時にしてもらいますよ」
ロザリンドさんは、何当たり前のことを聞いてるんだというような、キョトンとした顔で僕の目を覗いてきた。
「しながら、成り上がり、次の天帝の座に座り、我が魔族を助けていただきます」
「……えっ! 天帝!?」
あまりの事に僕は声を上げてしまった。
「そうやって世界を魔族と人間の共生できる世界を作るのでございます。。そして天帝となり、魔族のための社会を実現いたしましょう」
「……えっいや……」
そんな大層な……。
「人間を殺せなど、言っておりません。これならば可能でございましょう」
「……マジで言ってるの?」
「マジでございます!」
今度はロザリンドさんが、急に大声を出した。
「妾のためになんでもしてくれるんでございますよね!? 妾もリベルラ様のためになら何でも致します! 責任を取ってもらいます!」
行動と裏腹に、自信なさげに僕を見てくる、ロザリンドさんの目が潤んでいた。まっすぐ見つめる瞳は力強くて、僕は目を反らしてしまう。
冒険者に、もう一度……? さっき追放されて……諦めたばかりなのに……
周りのケガ人たちが、いやらしい目やうらやましい目や汚らわしい目で見てきていた。
「なんでもって……おいおいおいおいおい、なんてこった!?」
「うらやましいね、ええっ!」
「やっちまえよ、おらぁ!」
からかってきている。
「リベルラ様……リベルラ様? 返事をしてくださいませ……」
ロザリンドさんがささやき声に戻って聞いてきた。
「……ごめん……。無理だよ……」
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