お前は正式なマンヒ・パーティだぜ


 僕は今までの事を鑑みると、そうだよな……。


「なぜでございます【覇王の紋章】ならば可能でございます」


 ロザリンドさんが小さな声で、強く訴えてくる。


 そこなんだよ……。


「ロザリンドさん、【覇王の紋章】とやらが、僕にあるのなら……僕は冒険者として、名を馳せる事ができる、はず、だと思います。炎竜の事を考えれば……でも、さっきゴブリンにやられてんですよ……僕……」


 ズキズキ痛む頭をさする。


「痛い……だいたい何で急に炎竜と戦えたのかもわからない……」

「そこなのです、リベルラ様……どうして負けてるのでございますか?」


 頬を膨らませ怒ってきた。


「僕に聞かないでください、覇王の紋章に発動条件みたいなのがあるんじゃ?」

「なぜご自分でわからないのですか?」

「皆、スキル名しかわからないものでしょ……」

「……では私が、ちょっと調べてみます。前は適当にさらりと見ただけでしたけれど、今度は目を凝らして、なんとか効果の隅から隅まで見てみます、スキル発動、デビール・アイ!」

「うわっ」


 目から発する怪しい光に体が照らされる。


 いきなりの怪しい光に、


「おおっもこいつらこんなところでおっぱじめやがった」

「おい、皆、身に来ーい!」

「ヘンタイだ、こいつらへんたいだ!」


 回りの人達が勘違いして騒いでいる。


「リベルラ様……」


 ロザリンドさんが驚いた顔をして、表示された僕のステータスを見ていた。


「何です?」

「ありません」

「え?」

「覇王の紋章のスキルがありません、どういう事でございましょう」


 ロザリンドさんが、ハの字眉になって、ほっぺに人差し指を当て、頭を傾ける。


「……ないって……」


 表示されてる僕のステータスをのぞき込んだ。裏ステータスのスキル欄には、何も書かれていない。


「あとリベルラ様、マーベラス・マンヒ・パーティ所属となっておりますが、これはどういうことでございますか?」


 ロザリンドさんがステータスを表に戻す。


 所属パーティ欄に、マーベラス・マンヒ・パーティとに名前が書いてあった。


「なんだこれ、いつの間に……」


 その時、


「ロッサ」


 僕を呼ぶ、聞きなれた声がした。


 この声……。


 嫌な気持ちで、振り向くと、


「起きたかぁ、心配したぞぉ」


 やっぱりマンヒだった。モヒカンをばっちり決め、にこやかにこっちにやって来る。なんでも良いけど、なんてバレバレの作り笑顔なんだろう……。


 そして何の用だろう……?


「どうだ調子はっ」


 不自然な明るさの言い方で聞いてくる。


「なんだ、この女……てか何やってんだ、こんなところで……汚らわしい」


 ロザリンドさんが、スッとベッドから降りていった。服の乱れをササッと直す、のを横目に、


「何の用……」


 僕は目を合わせず、尋ねた。


「何の用って、心配で来たんじゃないか。看護師さんから起きたって聞いてよ」

「聞いたって、どういう事?」

「パーティメンバーだから、お前が起きたら呼べって、言っといたんだよ」


 僕はロザリンドさんを見た。ロザリンドさんはぽかんとして顔で僕を見ている。


「……パーティメンバーって、マンヒの事を言ってたの……」


 ロザリンドさんがマンヒを睨みだした。


「ああっ、そうだとも。なぁ、ちょいと話をしようぜロッサ」

「なんでそんな事を……」


 マンヒがしゃがんで、僕と目線を合わしてくる。そして優しい声音になって、


「【覇王の紋章】の事は俺も知った。そして俺にはそれが必要なんだ、な?」

「……いったい、どこで知ったんだ?」

「お前は知らなくて良い事だぜ」

「断ったじゃないか……それに僕は、もう冒険はやめたんだ……それに【覇王の紋章】とかなんとかいうけど、効果なんて発揮したりしなかったりよくわからないしろもんだ……」

「……そうかー、まっダメなのはわかり切っていた……穏便に行きたかったんだがなー」


 マンヒがグッと僕に顔を近づけてきた。


「家族がどうなっても良いのか?」


 無表情でささやいてくる。


「何……言ってるんだ……?」

「ラーパも、お前のところの家族は皆、俺に信頼を寄せてたな。俺のパーティに復帰なら喜ぶだろうよ。それに、ラーパは俺の事を好いている……可愛い妹に嫌な思いはさせたくないだろ?」

「おい、冗談にしては……」

「冗談じゃないぜ、ロッサ。俺にはお前が必要なんだ」

「何を急に……こんなことして仲間にしたって僕は、仲間になったところで協力なんかしないっ」

「別に何もしなくて良い……黙ってパーティになっていろ。いるだけで良い。そして、良いか、俺に逆らうな。それだけ覚えていたら良い」


 高圧的な言い方に、僕は何を言って良いか、分からなくなった。多分何を聞いても答えてくれないのはわかりきっていた。


 家族を……? なぜそんな事までして仲間に入れようとするんだ、こいつ、おかしいぞ……。


「もし、妾を抜きで内緒話なんておやめいただきたいっ」


 ロザリンドさんが眉を吊り上げている。


「あなた様が、なんとかマントヒヒ・パーティの方でございますか?」

「マーベラス・マンヒ・パーティだ! 何だこの女は!?」


 マンヒが立ち上がり、ロザリンドさんに振り向く。


「妾はリベルラ様の妻でございます」

「妻……あいつのこと様付きで呼んでたな……一体お前この短い期間に何があったんだ?」


 マンヒがこっちを見てきた。


「なんでもないよ……」

「なんだよ教えてくれよっへへへ」


 僕は何も答えず、マンヒから目を逸らす。


「なぜリベルラ様が冒険者として、あなた様のパーティになっているのでございましょうか? リベルラ様はこれから冒険者になる予定なのでございますよ」

「何言ってんだ? 俺はロッサとはずっと同じパーティでやって来たんだぜ」

「は? ずっと?」


 ロザリンドさんがほっぺに人差し指を当て、頭を傾けた。


「どうしたんだ?」

「リベルラ様、冒険者になんてなったことなかったのでは?」

「え? ああ、そうだったね……そんなこと言ったね、たしか……」

「なんだ? 隠してたのかよ? へへへ」

「いや、隠してたってわけじゃないけど……」

「待っていただきたい、前にリベルラ様のステータスを見た時は無所属でございました。それがなぜ急に、所属しているのでございましょう」


 ロザリンドさんが強い語気で尋ねてくる。


「ははははは。それはな、俺はこいつを追放処分にしてて、仮メンバー扱いになってたからよ」


 言いながらロザリンドさんにウインクをした。そして、さりげなく肩に手を回す。


「でも実はな、マンヒ・パーティにな、実はもう復帰さしてあげてるんだ。追放しようとして、仮状態だったのを無くして、今や、ロッサは正式なマンヒ・パーティだぜっ」


 マンヒが僕に満面の笑みで微笑みかけてくる。

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