<サイド・ストーリー> 一方その頃、マンヒ・パーティは②


 王都より馬車で15日、ゆったりと揺られて少し肌寒い北国にマンヒ・パーティはやって来た。


 ここはヤーゴナ国、北部――。


 マンヒ達は『怨竜の洞窟』で新たに見つかったという迷宮ダンジョンに到着していた。


 湿っぽいごつごつした洞窟を、半ばまで進んだところにある巨岩。その下に迷宮ダンジョンへの入り口は見つかる。


 マンヒ達の前に、木っ端微塵に砕かれた元巨岩の跡に、砂岩で四角く切り取った入り口がぽっかり開いていた。四角い、暗い空間が、どこまでも地下に伸びている。


「おい皆」


 マンヒがパーティのふたりを呼んだ。


「見ろよ」


 としゃがんで、落ちていた何かを拾う。それは金貨だった。


「きゃあっ、金だぁっ」

「はははははは、幸先良いぜぇ」


 笑うノーノにスコットが厳しい目を向け、


「ノーノ、拾ったらちゃんと報告してくださいよ」

「わかってるよ、もうしないって、何よもうっ」

「前科があるからなぁ、お前……」

「しないって、信じてよっ」

「へへへ、じゃあ皆、行くぜ」


 マンヒが大股で、ダンジョン内へと足を踏み入れる。そのあとを女武闘家ノーノと魔法使いスコットが続く。


 スコットの体には、魔力ロープが巻かれていた。これを入り口につなぎ、捜索を終えたら辿って出口まで帰るためだ。


 使っているものの魔力値応じて長さが変わる魔力ロープ。スコットの場合1キロまで伸びる。ランダム生成ダンジョンでの文字通りの命綱だ。


 少し歩くと分かれ道があり、道は曲がりくねっているダンジョン内を、マンヒはいつものように何も考えずズンズン進んでいった。


 真っ暗な内部を、スコットは光球魔法を唱え、明るく照らしている。手の平大の光を発する球を頭上に浮かべ、パーティの回りを照らしていた。


――その光に影が差す。


 マンヒは腰に差した剣を抜いた。同時にノーノがファイティングポーズを取る。スコットが後退し2人の後ろに隠れた。いつもの陣形である。


 差した影は、骸骨戦士だった。


 ダンジョンで死んだ冒険者のなれの果て、という説もあるが、よくわかっていない。武器を持っていることが多いが、今回は何も持っていなかった。


「早速出やがったな、モンスター」


 黄金に輝く剣の切っ先を向ける。マンヒの装備武器はレアアイテム、攻撃力50のゴールドソードだ。


 スコットが骸骨戦士に分析魔法をかける。戦闘ルーティンだった。まず情報を手に入れてから戦うのがセオリーだ。


「マンヒ様、奴のステータスを読み込めました。レベル20、なかなか強い、スキルは【骨半鐘】。くそっ聞いたことがない。スキル名から推測するにも、半鐘ってなんだ? どんな効果かわからない……」


 ポファルで見られるのは所持スキル名のみ、そのため知らないスキルが来た時は推測しながら戦わなければならない。


「もう、物知りのくせに肝心なこと知らないんだからっ」


 嫌味を言うノーノをチラと横目で見ると、


「アンデットモンスターらしくHPは10しかありませんが、防御力150もある、硬い骨です」

「ははは、健康で良い。だが、俺の元々の攻撃力40とこの剣の攻撃力合わせ、さらにそこから【盗賊の極意】での戦闘時に攻撃力倍増のバフにより……」

「いけるね、マンヒ様、いつものようにやっちゃって!」

「おうよ!」


 マンヒが、カクカク動く骸骨戦士に斬りかかった。


 俺の攻撃力は180。こいつの防御力分引かれて、徹ダメージは30、HP10のこいつは一撃だ。こんな骨叩き折ってやるぜ!


「ヤー―!」


 掛け声とともに、ふりかぶった剣を振り下ろす。

 

 カツーーーンッ。


 甲高い音が響いた。


 剣は骸骨剣士の頭蓋骨に思いっきり叩きつけられた、のは良いのだが、骸骨剣士は何事もなくピンピンしている。


「ああ……あ、ああ……」


 マンヒは、硬いものを思いきり叩いた衝撃で手がしびれてしまい、あわあわ言いながら後退していった。


「どっどうしたのマンヒ様?」

「スコット! てめぇステータス読み間違たな!」


 マンヒはしびれた手をぶんぶん振りながら激怒した。


「いえ、そんなはず」

「ぜんぜん効かないだろうが!」


 その時、骸骨剣士がマンヒに突進してくる。


 虚を突かれたマンヒだったが、焦ることなく体を骸骨剣士に向け、体当たりを正面から受ける形をとった。


 へへっ、馬鹿な奴め。


 マンヒが、にやりと笑う。


 俺の【盗賊の極意】の効果。ダメージ無効とダメージ反射があるってのによ! わははははは、そのまま自分の攻撃で自分を傷つけろ!


 骸骨剣士の体当たり攻撃が、マンヒに直撃する。


「ぎゃあああああああああああああああああ!?」


 マンヒは激痛が走る腹部を見下ろす。


「あ、あがああああああああ!? いでえ!? いでえ!? いでえ!?」


 受けた際、骨のとがった部分が腹部を直撃したのである。


「ダメージなんて受けるはずないんだ! 攻撃を食らうことが間違いだ! いつもは何もないのにぃ!?」


 マンヒは激痛で涙が流れて前が見えない。少しパニックになっていた。


「これは何かの間違いだ。たまたまクリーンヒットしてしまっただけだ。二度とこんな不運は訪れることはない。ただの偶然。そう偶然だ」


 マンヒが良い聞かすように早口で自分に言う。


「ノーノ、早く行け、俺の回復時間を稼げ!」

「マンヒ様! それがおかしいの!」


 ノーノが叫ぶ。


 ノーノは今まで、攻撃力を2倍にするスキル、【力溜め】を行なおうとしていた。


「できない、力溜め出来ない!?」

「ああ!? どういうことだよ!?」


 骸骨戦士が、標的を変えノーノに襲い掛かった。


「きゃあ、こっち来たぁ! 何で急に!」

「何かおかしいです。逃げましょうマンヒ様。動きの鈍いこいつなら逃げきれます」

「くそっ」


 そこに骸骨戦士が骨を鳴らし始めた。


――カタカタカタカタカタカタ。


 すると音を聞きつけた、骸骨戦士が一体ひょろひょろとマンヒ達の前に現れる。


「ぐっ仲間を呼ぶスキルだったか!」

「マンヒ様、こっちです、細いですが横道があります!」


 マンヒ・パーティは細い通路を、体を横にして逃げ出していく。


 くそっ、一体何が起こってんだ!


 なぜ攻撃が聞かなかった! ダメージ無効があるはずなのに、なぜダメージがあるんだ! どうなってんだよ!


 マンヒは動揺していた……。

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