<サイド・ストーリー> 一方その頃、マンヒ・パーティは③

 ヤーゴナ国、北部――。

 『怨竜の洞窟』で新たに見つかったという迷宮ダンジョン、地下2階にて。


「ふう、ふう、ふう……」


 マンヒ達は迷宮ダンジョン内をやみくもに走って、地下2階にまで来ていた。


「ここまでくれば大丈夫だ……」


 骸骨戦士を振り切り、逃げることに成功したことを確認すると、


「おいっ何やってんだよ! ノーノ!」


 開口一番、マンヒはピンチに加勢しなかったノーノに激しい怒りをぶつけた。


「違うのっ……スキルが使えなかったんだって!」

「じゃあ、一時強化アイテムを使えよ!」

「持ってないよ!」

「そんなわけねぇだろ! お前また、一時強化アイテムは高価だし、自分にもしもの時が来たとき使うために、とかで使わなかっただろ!」


 マンヒは訝しんだ目でノーノを睨む。


「してないよ!」

「……前科があるからな……」

「もうっ、そんなことよりスキルが使えなかったのはなんでよ!」

「マンヒ様、つまりあの骸骨は相手のスキルを不能にするスキルを持っていたと推測できます」

「そんなところだろうな……、厄介だ」


 おなかの痛みが引いたマンヒは立ち上がり、乱れたモヒカンをセットし始めた。


「どうすんの、あんなのとまたエンカウントしたら……」

「逃げたら良いだけだ、あいつはトロい。恐ろるるに足らん」

「他にはいないのかな?」

「気を付けてたら良いだけだぜ、何を怖がってる子猫ちゃん。冒険者に危険はつきもの、怯えたやつから順に死ぬもんなんだぜ」


 マンヒは、いつものように大股で歩きだす。


「きゃあっ、マンヒ様、頼りになるぅ!」


 ノーノがマンヒに抱き着いた。


「さすがは、まだ誰も攻略してない迷宮だぜ。久々にビビったぜ。しかし、という事はすげぇレアアイテムもあるはずだぜ」

「ちょっと待ってください」


 スコットはのっしのっし歩くマンヒを呼び止めた。


「マンヒ様、もっと計画的に探索を進めたほうが良いのではないですか。危険な敵もいる事ですし、右の壁沿いに進んでいってなど、地図を作っていくとか。普通の冒険者がするように」

「……何言ってんだスコット」


 マンヒは呆れた声と、呆れた目でスコットに応じる。


「んなこたぁ、お前の言ってる通り他の冒険者もやってる。そんなことしてたら先を越せねぇだろ……」

「し、しかし……」

「俺の能力を信じられねぇのか。良いんだよ、どんどん気の向くまま進めば……」

「そうよそうよ。バッカじゃないの。【盗賊の極意】の効果のレアアイテムドロップ率、発見率アップ。トラップ完全回避があるじゃない!」


 ノーノがイーッと歯を見せた。


「そうだぜスコット、今まで何も考えず進んでも、俺達は今までアイテムをゲットしてきたじゃないか。何を今さら他の凡人たちと同じことする必要があるんだ」

「ああ、そうなんですが……」

「あん?」


 マンヒはスコットを睨みつけた。


「いえ、すいませんでした」

「分かれば良いって事よ。そしてスコット、早速だぜ」

「え?」

「あれだ」


 マンヒが指さす方をスコットが見ると、気づかなかったがそこには横道があって、宝箱が通路の真ん中にある。


「えへへ、マンヒ様、早速取りに行こう!」

「おうよ!」


 ノーノに引っ張られマンヒが宝箱へと向かう。


「マンヒ様、怪しくはありませんか?」


 スコットがまたも、マンヒを制止した。


「人食い箱の可能性があります」

「何言ってんだ、お前」

「おかしいです、道の真ん中にあんな、分かりやすすぎるトラップです」

「ああっ、なんだてめぇっ!」


 マンヒの怒りが頂点に達する。


「嫌だ嫌だ! いい加減にしろよ。今まで俺が人食い宝箱に当たったことあったか! えっ? あるわけないんだよっ俺のスキル【盗賊の極意】の賜物でなぁ」

「ああ、たしかにそうだが」

「もし、人食い箱ならば、俺の【盗賊の極意】の効果が発動して、キュピーンて頭の中を電流が走るんだよ。それが来てない以上、あの宝箱は、本物! 次にくだらない事をしゃべったら殺すぞ!」

「ホントホント、スコットって馬鹿ねー」

「こんな馬鹿ほっといて、行こうぜノーノ」


 マンヒとノーノが2人、スキップして宝箱に向かっていった。


「そ、そうですね、すいません。【盗賊の極意】スキルの恩恵があるから、そんな心配いりませんでした」


 スコットが後を追いかける。


「スコットったら何言ってんだかっ、マンヒ様がトラップにかかるわけないんだからっ」

「そうだぜっ。まったくっ」


 マンヒとノーノが、スコットをあほらしっと笑った。


「さっ開けるぞっ」


 マンヒが、通路のど真ん中にドンっとおかれた宝箱に手をかける。


 【盗賊の極意】の効果が発動して、キュピーンて頭の中を電流が走るってことはなかった。


 なのでマンヒは、下舐めずりをして、迷宮ダンジョンでの初アイテムゲットは、どんなレアアイテムかと、うきうきしだす。


「マンヒ様、早くっ早くっ」


 ノーノに急かされて、


「よーしっ、カウントダウン。3、2、1……そーれ!」


 マンヒが勢い良く宝箱を開けた。


 その宝箱は人食い箱だった。


 マンヒは頭からパックリ食いつかれてしまう。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」


 絶叫がダンジョン内に木霊した。


「いやぁぁぁぁぁぁっ! マンヒ様ああああああああああああああああああああっ!」

「うわああぁぁぁぁぁぁっ! やっぱ人食い箱じゃないかああああああっ!」

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