<サイド・ストーリー> ガメーガン討伐戦 ③


 ラクマカ・ギルド3階東にある防具屋で、ロッサが選んだ装備に大反対をしていたロザリンドが、全く折れないロッサに折れた。


 ついに買い物を終え、満を持してロッサとロザリンドが、ガメーガン討伐戦が繰り広げられている戦場へ急ぐ頃。


 戦いは苛烈を極めていた――。


 戦場は地獄に変わる。


「くそ! 左足が動いたぞ! あっちを担当していた奴は何やってるんだ! 押されちまうぞっ!」

「だめだ!モンスターの攻撃が苛烈すぎ――」

「兄貴!? 兄貴がやられた!? くそっ! このモンスター共!」


 戦う冒険者の悲鳴が木霊する。


 ギルド軍は崩壊しかけていた。


 後衛の魔法部隊の回復魔法とギルドがあるだけのアイテムを配備して戦力をギリギリ支えていたが、それは時間稼ぎ以上の意味は持たない。


 現れた5000のモンスターの強さと、何よりもその多さ、グール、オークなどから、キマイラ、ガーゴイルなどの飛行モンスターまでが大攻勢を仕掛けてくる。


「部隊長! 右翼から援軍の要請です! ガーゴイルが出現! 弓使いを回してほしいと!」

「自分たちで何とかしろと伝えろ! そんな戦力ねぇよ! それより正面もやべえんだよ!」


 冒険者達は大混乱に陥っていた。


 マンヒが、ラクマカへと進む足を食い止めようと、右脚戦線へと移動する。


 正面は、ガメーガンの炎の息と、巨大な口による噛みつき攻撃をで、次々に冒険者がその大口の中へと飲み込まれていった。


 マンヒはその時、ラクマカへと近づくガメーガンを食い止めるため、意見を取り入れる事にし、右脚へと急いでいた。


 モンスターの群れに襲われる冒険者達を助けながら、ガメーガンの右脚へと到着したマンヒが、全力で攻撃を開始する。


「くそっ、止まれ!」


 マンヒの剣が、何どもガメーガンの足に振り下ろされた。


 78のダメージを何度も与えているも、HP4891の前には回数が足りない。


 しかも、使役モンスター達は攻撃の邪魔をするだけでなく、ガメーガンを回復までしていた。


 まったくダメージが蓄積していない。


 ガメーガンは一歩一歩スピードを変えず、歩いて地響きと共に、激しい戦闘の土煙以上の土煙を上げ、ラクマカの大城壁へと迫っていく。


「すでに戦力が! 部隊長! もう我々だけでは!」

「何とかもたすように言ってくれ……くそ……だめだなんて、そんなことが……」

「化け物め!くそっくそっくそっ!」


 冒険者達の叫び声、モンスター達の叫び声が木霊する戦場で、ガメーガンの一歩一歩が大地を揺るがす足音が、一定間隔で聞こえてきていた。


 ガメーガンは、もはやラクマカの壁へと衝突寸前であった。


「……終わりだ……」


 ギルド長が、目の前の後継に絶望して膝をつく。


 絶望が胸中を支配していたのは、ギルド長だけではない。全冒険者が、もう負けを覚悟し、死を覚悟していた。


 絶望が冒険者たち全員の胸中を支配していた。


 その時、マンヒが前線から帰ってくる。


「マンヒ殿、前線で戦っていたのでは?」

「負けると判断して戻って来たんだ」


 ギルド長が目を細めた。


 剣をしまい後方のギルド長のところまで戻って来たマンヒは、


「終わりだ……ギルド長、この街はあきらめよう」

「……そんな……」


 ギルド長は唇を噛み、ぎゅっと目をつむる。


「苦しい決断じゃが……もはやこれまでか……」

「そうだぜ、こんなの勝てっこねえ」

「そんな、くそっ、こんなに戦力があってダメなのか」


 とギルド長が地団駄を踏む。マンヒは静かに戦場を見下ろしていた。


 その時、


「ちょっとそこのあなた、その場所をどきなさい、邪魔ですわ」

「へ?」


 マンヒは突然現れたロザリンドに、押しのけられてしまう。


「な、なんだてめぇ!?」

「よし、良かった負けてございますね」


 ロザリンドは戦場を俯瞰して、安堵していた。


「な、何が負けて良かったなんだ貴様!?」


 マンヒが憤慨して怒鳴った。


「ふふふふ」

「何を不気味に笑って!?」

「ふふふふ、リベルラ様の活躍の場が残っていて良かったという意味でございますよ」

「はぁ!?」


 マンヒが驚き言葉を失ってしまった。


「妾ら、リベルラ・パーティが、今からガメーガンを討伐いたします」

「はぁぁぁぁ!?」


 もう一度、今度はギルド長が驚きのあまり言葉を失ってしまう。


「今まで、リベルラ様のガメーガン退治を盛り上げるサイドストーリーをご苦労様でございました」


 ロザリンドはそう言って、驚くふたりをすまし顔で微笑みかけた。


「ササ、サイドストーリー? なんで俺たちの戦いがサイドストーリーなんだよ!」


 マンヒが怒鳴る。


 そこへ『とがったホネ』を鼻の横から突き通し、『カメのこうら』を着た男が現れた。


「なんじゃこいつ? どこかの民族出身でその誇りを忘れてない人?」


 ギルド長は、驚いた顔のまま『カメのこうら』を着た男を凝視する。


「ロッサ、お前何してんだ!」


 マンヒが『カメのこうら』を着た男に詰め寄る。


「そんな恰好をまだしているのか、やめろと言っただろう!」

「なんで?」


 『カメのこうら』を着た男が首をひねった。


「何でじゃねぇ!」


 マンヒがロッサの肩を掴み、


「いいか、お前の服のセンスは異常だ! 勘弁してくれ!」

「ちょっとお待ちを」


 ロザリンドがふたりに駆け寄って、


「リベルラ様の、このセンスは前々からなのですか?」

「そうだぜ、こいつはね、昔からこれなんだ……」

「なんという、事でございましょうっ」


 ロザリンドが口元を手で覆った。


「俺は、昔からこいつと一緒にいると道行く人からじろじろ見られ、ホントに嫌な思いをしてきたんだ……」

「それは、辛い事でございましてたね……」


 マンヒとロザリンドがふたりして俯く。


 ロッサは、キョトンとして俯くふたりを見ていた。なぜ俯いているのか、全くわかっていないようだった。

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