第23話
クレアの遺体を綺麗に整え、祈りを捧げる。普段はそんな事しないのだが、今回はそうしないといけないような気がした。
アメリアは『認識板』を持って、ララの元へ急いだ。とっくに退却命令は出ているので、途中途中にいる魔物を倒しながら戻る。
真白の帳が天高くにあがる。もう、クレアの遺体は取りに行けない。遺体は跡形もなく魔物に食べられるだろう。それなのにどうして、クレアは置いて行けなんて言ったのか。
(ララに渡さねば)
アメリアはクレアと長くいる訳では無い。なんならあれが初対面だ。友情なんて無いに等しい。でも、
(もっと早く会っていたら、涙が流れたのでしょうか...)
そう思わずにはいられない。クレアはララの友人だったのだ。あのララの事だ。アメリアに紹介しようと考えていても可笑しくない。
アメリアがララを見つけた時、ララは他の聖女と話をしていた。そこに割って入り、ララと2人で話がしたいと告げる。
「アメリア、お疲れ様!どうしたの?」
明るくララが言う。アメリアは首から下げていた『認識板』をララに見せた。
「これを、ララにと。クレアと言うララのご友人から預かりました」
「......え?」
ララの瞳が大きく見開かれる。震える手で貰い受けた『認識板』を何度も、認めたくないというように瞬きをして見つめる。
「...アメリア?なんでこれ持ってるの?」
ララの瞳は今にも零れ落ちそうだ。『認識板』が本人以外の誰かの手の中にある。その意味を理解出来ない人は居ない。
脳がその事実を拒否しようとしている。
「.....お亡くなりに、なりました...」
そう言った瞬間、今までアメリアが見た事無いほどの剣幕でララは言った。
「どうして!?言われたって事は、クレアはまだ生きてたんでしょ?どうして蘇生しなかったの!!」
アメリアが一度も聞いた事の無いララの本気の怒りだった。
「...はい、ララの言う通りです。私はクレアを蘇生しませんでした。...理由があります。彼女が―――
――――『生きる、理由が...無いの』
と、言ったからです」
アメリアの言葉にララの瞳が一際大きく開かれる。
「へ?....クレアが、言ったの?」
「はい、申し訳ありません」
それは何に対する謝罪だったのか。きっと全てだろう。クレアを救わなかった事も、ララに何も言わないで蘇生しなかった事も。
「遺体は、当人の希望により運んできませんでした」
「.....そっかぁ...」
さっきの怒りが嘘のようだ。ララの頬には一筋の雫が流れている。その潤んだ瞳は今にも決壊しそうだ。
「....アメリア、クレアはなんて?」
『アメリア、クレアに――――』
「肩を貸してくれてありがとう、だそうです」
今度こそ、ララの瞳は涙で決壊した。
「なんで、肩..なんて何時でも、貸すのにぃ.....」
涙が止まらない。ララはクレアが生きる意味が無いと言った理由を知っている。心が既に壊れていた事も。
どうせなら、最後まで壊れたままでいて欲しかった。そうしたら、まだ救えたかもしれない、また一緒に出掛けられたかもしれない、また一緒に笑えたかもしれない、なんて事を考えずに済んだ。
そんな事を思ってしまう程、ララの心は今、ぐちゃぐちゃだ。
「...ララ、クレアはどんな人でしたか?」
アメリアがララに声を掛ける。気の利いた事は言えない。何を言ってもララの心を抉るだけだろう。
「....クレアはね、私のお姉ちゃんみたいな存在だったんだよ....同い歳だけど。明るくて、優しくて、恋人の事を一番大事にしてた」
「そうですか」
「アメリアにも、紹介しようと思ってたんだよ?」
ぽつぽつとララが語る。まだ静かに涙はララの頬を伝っている。
「本当に恋人の事...大事にしてて、だからだよね...」
そう言うと、ララは下を向いて手で顔を覆った。抑えきれない嗚咽が指の隙間から聞こえる。
「こんな、気持ちなんだね....大切な..友人を失うの....」
「ララ...」
アメリアはララの背中に手を添えた。子供をあやす様に震える背中をさする。
「うぁぁ...あぁ..」
あの日のララと同じように、アメリアはララの背中を撫で続けた。
その行為に、ララの涙は更に溢れて何時までも泣き止むことが出来なかった。
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