第7話
「戦闘力は申し分ないな」
「ありがとうございます」
模擬試合を終えたアメリアはロストの執務室に戻っていた。
「しかし、不死の聖女の戦闘力が高いというのは本当だっんだな」
ロストはアメリアの模擬試合を見て驚いていた。今までも聖女と騎士による試合は何度もあったが、勝率的には五分五分と行った感じで、若干騎士達の方が上だっからだ。
実力的には魔法が使えない分、聖女たちの方が劣るだろう。それを踏まえた上でも、アメリアの強さは尋常ではなかった。
ラウルとアメリアの試合は見事だった。騎士達のいい刺激にもなっただろう。
他のどの聖女よりも戦闘力が高いとされる不死の聖女。彼女達は一体どんな訓練を積んだのだろうか。
「はい、私達不死の聖女は死ぬことがない分、限界を超えた訓練が行えます。そのため、どの聖女よりも戦闘力が高いと言われているのです」
「そうか...」
アメリアは淡々と答える。感情が見えない顔からは訓練の最中の苦痛や苦しみは一切感じられない。
"慣らされた"とアメリアは言っていたとロストはラウルから聞いていた。
ならば、これ以上は踏み込むべきではないのかもしれない。アメリアもそれは望んでいないだろう。
「よし、今日はご苦労だった。もう外も暗いし自分の部屋に戻って休め」
いつの間にか空は夕焼けに染っていた。どうやら大分時間がたっていたようだ。
「かしこまりました。お気遣い痛み入ります」
まるで召使いのようだとロストは思った。アメリアは基本、誰に対しても敬語か丁寧語だ。その美しい人形のような顔は感情を全く映さない。
「なあ、なんでお前はそんなに無表情なんだ?」
ただ、気になっただけだ。この、まだ成人して間もない少女が何故こんなにも感情を殺すのか。
「...師匠に感情を表に出してはいけないと言われたからです。喜怒哀楽はもちろん感じます。ただ、それを表に出していないだけの話です」
答えになっているような、なっていないような微妙な返答だ。もう少し深く聞きたいロストだったが、やめておいた。アメリアの空気が強ばっているのだ。これ以上は聞かれたくないのだろう。
「嫌な思いをしたのならすまない。もう帰っていいぞ」
「.......はい」
アメリアがロストの執務室を出ていこうとする。すると――
「隊長!聞きました!?今日の夕飯、デザートつくそうですよ!!」
1人の騎士が大声で言いながら、部屋の扉を開け放った。
「なんで、ノックをしないんだ...」
これには流石のロストも呆れ顔だ。ロストの部屋は基本、誰でも入れる。実はロスト個人の部屋は別にあるのだが、ロストはそちらを使っていなかった。この部屋を使っているのは演習場に近いからだ。
「あ、すいません。つい嬉しくて」
騎士は申し訳なさそうに謝罪をする。
「それにしても、何故そうもどうでもいい話題を持ってくる」
「俺、甘い物好きなんで!デザートつくとか久しぶりでテンション上がっちゃいました」
「私はあまり甘味が好きでは無いんだが」
「じゃあ、これを機に克服しましょうよ!!」
「お前1人で食ってこい」
バッサリ切られる騎士。しかし、残念そうな表情をしながらもどこか楽しそうだ。こうなることは分かっていたのだろう。
ロストも嫌そうな顔をしながらも、楽しそうだ。仲間との会話で和む時間は仕事の癒しなのだ。
アメリアはこの時、扉の外にいながらも中の会話はしっかり聞いていた。
「甘い物.....」
そう呟く声は、子供が今日のおやつを聞いて喜ぶような明るさがあった。
アメリアは瞳をきらりとさせると、早足で食堂に向かって行った。
その背中に、ロストが召使いのようだと揶揄した面影は残っていなかった。
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