第8話
翌朝、アメリアは昨日に続いてロストの執務室に来ていた。
因みに、先日のデザートはアメリアの大好物である「エイルピース」というスイーツだった。「エイルピース」とは酸味と甘みのある果物である「エイル」を、焼くとサクサクになる生地、「ピース」で包んで焼いたものだ。
誰よりも早く食堂に着いてエイルピースを食べていたアメリアを、後から来た騎士達は驚いた目で見ていた。
話を戻すと、アメリアが昨日と続いてロストの元に来たのには訳がある。
1週間後にアメリアにとっての初任務があり、その詳細を話したいというのだ。
コンコン
「入っていいぞ」
「失礼します」
ちゃんとノックはしたアメリアだ。昨日の騎士とは違う。
「それでは、任務の詳細について話を聞かせていただけますか?」
「ああ、お前もこの騎士団が魔王を倒すためにあることは知っているよな?」
「はい、魔王を倒すには私達、聖女の存在が必要不可欠であると教会で教えられました」
―――魔王とは、この世界にあってはならないものだ。魔王に意思などはなく、ただただ魔物という異形のものを生み出し続ける。
魔王から生まれた魔物にも意思はなく、目の前の敵に襲い掛かるという習性だけがある。
魔物は魔王と一心同体であり、魔王が死ねば魔物も死ぬ。魔王が知恵や意志を持てば、魔物も知恵や意志を持つ。
魔王は数百年に1度、復活する。しかし、決して強い訳ではなく、騎士団が全力で挑めば苦戦はするが、倒せなくはない相手だ。
アメリアは話を続ける。
「魔王を倒す足掛かりとなるために私達は騎士団に入団する。魔王が倒れるまで、聖女達に自由は訪れない」
「.....まあ、そうだな。数年前に魔王が復活して以来、魔物達も徐々にこちら側に攻めてきている。その殲滅戦にお前も加わることになった」
「かしこまりました、転移陣はどこに設置されているのでしょうか?」
「アマルナ高原だ」
「では、魔王のいる場所まではもうすぐですね」
「その通りだ」
アマルナ高原とは魔王のいる場所から少し離れた所にある高原のことだ。
数年前に魔王が復活して以来、騎士達は魔物の殲滅に明け暮れていた。そこまで強くないと言えど、魔物の数はとても多い。魔王に到達するまで時間が掛かるのだ。
殲滅する度にこの拠点に戻っているのでは、魔物の進行を食い止めることが出来ない。そこで、倒した地点に転移陣と境界線を設置しておき、そこからまた殲滅するという行為をここ数年、騎士団は繰り返してきた。
あと少しで、魔王のいる場所に辿り着ける。聖女達も、もうすぐ自由になることが出来るだろう。
ふと、アメリアが呟いた。
「...魔王は必ず倒します」
どこか決意を秘めた声だ。魔王に思うところでもあるのだろうか。ロストはその声に一瞬驚くも
「その時はよろしく頼む」
と、感情を表に出さないように重々しい声で告げた。
「はい」
決意を秘めた瞳が真っ直ぐにロストを見ていた。
――――――――――――――――――――
最後まで読んで下さりありがとうございました
《語句》
エイルピース...アップルパイと同じようなもの
境界線...魔物を退ける結界。進行をくいとめるためのもの
転移陣...一度に大勢の人数が転移可能。一度行った場所にしか設置できない
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