第6話

アメリアの目の前に現れたのは、アメリアの家族だった。


「え?どうして、みんなが·····」


アメリアは信じられないといったふうに、首を左右に振る。家族は死んだ。死んだはずだ。あの炎に包まれて。

なのに、どうして自分の目に家族の姿が映っているというのか。


「アメリア、久しぶりね」


アメリアの母が口を開く。アメリアによく似た容姿だ。月の光のような白髪に白い肌、桜色の唇。瞳はアメリアと違い、太陽の如く輝く金色。


「おかあ、さん?」


「そうよ。ずっと貴方を見ていたわ」


「おとうさん?」


「ああ、本当に頑張ったな」


「ギル?」


「うん!お姉ちゃん、すっごく強いんだね!」


「―――·····!!」


アメリアは目元を手で覆う。そうしないと何もかも溢れてきそうだった。今までの痛みとか苦しみとか、涙とか本音とか。全部全部。

いつも表情を消していた。強くなる事だけに固執し、数々の痛みを味わった。


心を無くした人形が、家族からの一言でただ泣くだけの少女になる。


涙を流すだけになった少女は消え入りそうな声で言った。


「わ、私だけ····残って···ごめん、ごめんなさい。わたし、ずっとずっと····お母さん達と、話したかった·······」


少女の口から出たのは、懺悔と願望だった。一度溢れたものは洪水となって留まることを知らない。


「もっと、話したい····ギルとも遊びたくて、まだ····夢も見せてなくて··ずっと、会いたかった。···私だけ···残るなんて、嫌で····他の人を救っても、家族は戻らないのに····なんで、なんでアメリアだけ····」


アメリアの家族は、彼女の言葉を静かに聞いていた。暫くして、アメリアが落ち着いたところを見計らい声をかける。


「アメリア、大きくなったわね」


アメリアの涙が止まる。まだ赤い瞳が食い入るように母を見つめる。


「·······うん。アメリアね沢山頑張ったんだよ?褒めて、欲しいな」


アメリアは自分の呼び方が子供の時に戻っていることに気付いていない。母は何も言わず腕を広げた。


「ええ、ほら来なさい」


アメリアは自らの母の腕の中に飛び込んだ。顔を胸に押し付け、ひたすら泣く。


「偉いわ。本当に貴方は自慢の娘よ」


アメリアの母はアメリアの頭を撫でる。何回も何回も。ただただ、自分の娘を慈しむように。



「なんで、皆がここに居るの?」


頭を撫でられて落ち着いたのかアメリアは最初に言ったことと同じような事を家族に問う。


「ああ、呼び出されたんだ。『死』の神にな」


「そうだよ!すっごく綺麗なお姉さんがね、お姉ちゃんと話をして欲しいって!!」


「そうなのよ。私達も貴方の事を見ていて気になっていたから、直ぐに了承したの」


父、弟、母と順番に答える。どうやら、ソルアテクが家族を呼んだらしい。


(こうなる事分かってたんだ····あの人)


アメリアの脳裏に、いつもお節介をかけてくる人物の顔が浮かんだ。



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不死身の聖女 金木犀 @misaki3113

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