第22話
―――『認識板』―――
騎士達一人一人が身につけているもの。死んだ時に身元確認するために殲滅戦の時は持っておくよう義務付られている。
********
束の間の休息も終わり、再び魔物を殲滅する日がやってきた。
することは最初と変わらない。魔物を切り裂き、その血で戦場に紅の華を咲かせる。
アメリアは前回と同じように戦場を駆け抜け、騎士を蘇生し、自分を殺した。
そして、また1人魔物の攻撃に倒れる者がいた。
「大丈夫ですか?」
倒れたのは女性の騎士だった。女性、いや少女と言っていい年齢に見える女は、肩の辺りで切り揃えられた淡いベージュ色の髪、透き通るような翡翠色の瞳を持っていた。
その瞳はあと少しで生命の輝きを無くすだろう。
「1度貴方を殺して蘇生します。怪我も残りません。苦しまないように一撃で殺します」
少女の眼は虚ろだ。ほっといても後、数分持つか持たないかだろう。
アメリアは少女の心臓に剣を突き立てようと、腕を上げた。しかし、
「や....めて....」
少女の血に濡れた唇から言葉が漏れ、アメリアの動きが止まった。
「.....何故、ですか?」
アメリアは混乱する。蘇生を拒否されるのは初めての経験だったのだ。いや、蘇生する時点で相手が言葉を介せる状態では無いのだが...。
「もう、生きる..理由が...ない....の..」
「生きる理由?」
「うん、彼がいないのに...私だけ、なんて」
何もかも諦めたような声だった。蘇生しても心の傷は癒せない。この少女はきっと既に心が壊れている。生かしておく方が辛いかもしれない。
そう判断したアメリアは―――
「...分かりました。最後に何か言いたいことは?誰かに伝えたい事は?」
「あり、がとう...じゃあ、ララに――――と伝えて」
「...はい。他には?」
「私の、首に...『認識板』が、あるでしょ?...それも、渡して。後、私の死体は...ここに..置いたままで....」
アメリアは少女の首から、銀色のチェーンに繋がれた鉄の板を引っ張り出す。『認識板』に書かれている名前は、
「『クレア』と言うのですね」
「う、ん。アメリアの...こと、ララから聞いてたよ?」
クレアはほのかに笑う。友人からよく、アメリアという聖女の話を聞いていた。
無表情だが意外と感情が豊か、甘い物が大好物、人に教える事が壊滅的に下手、とても友人思いで優しい、等など。
友人のことを話すララの瞳はいつも輝いていて、誰に関することでもそうだった。
「ララのご友人、でしたか....」
「うん....ねーアメリア、死ぬって..どんな気分?」
アメリアは考える。最初の頃は死ぬことに対して、不死の能力を持っていながらも恐怖した。しかし、今ではすっかり慣れ、恐怖などという感情は殆ど消え失せた。
思っていることをそのまま言うのは憚られた。けれど、心地いいとか安らかだとかは、今まで見てきた騎士達の死に様とは掛け離れていて。
「忘れてしまいました。慣れというもは厄介ですね」
気付いたらそんな言葉を言っていた。忘れたなんて更に死に対する恐怖を掻き立てるものではないのか。言ってから気付いたアメリアだったが、クレアの口から聞こえたのは、
「.....そう、」
という言葉だけだった。そう言うと、クレアの瞳から輝きは無くなり、まだ人肌の温かさを少し残したまま動かなくなった。
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