第16話
『転移屋』とは、限られた人にしか出来ない職業で『転移』の能力を持つ人だけが就いている仕事だ。
魔法は基本、火、水、土、風の4つしかないが、ごく稀に他の属性を持って生まれる者もいるのである。
『転移屋』はお金を払えば、どこへでも転移させてくれる。しかも、戻る時も込みでだ。だから、『転移屋』はどの街でも重宝されている。
2人は、魔物のいる場所まで転移してもらおうと思い、『転移屋』に来たのだった。
「久しぶりだなー、魔物のいる所まで頼む!」
店の扉を開け放って店主に声を掛けたのはアメリアの師匠だ。
「お前はまた、魔物のいる所まで行くつもりなのか....」
かなり歳のいった老人が、■■■の言葉に呆れている。■■■は何度もここに通っているのだろう。
その態度には気安さが見て取れる。
「ああ!弟子の教育でな!!」
「普通、巻き込まないものだろ。弟子は...」
アメリアはそのやり取りをじっと見ていた。■■■と老人の付き合いは長いのだろうか。見たところ、老人の方が何十も歳上に見えるのだが....。
「で、お前さんがこいつの弟子かい?」
「はい」
「■■■は本当に...まだ、成人に達していない子を魔物と戦わせるなんて....」
「私も了承しています」
「なら、言うことはないね」
意外とさっぱりした性格のようだ。心配はしながらも、当人がいいならそれでいいらしい。
「じゃあ、いつもの値段の2倍だな!」
「ああ」
■■■は服の中から金袋を取り出し、代金を払った。傍目で見ていたアメリアだが、その金額にギョッとしていた。
「ん?ああ、■■■みたいに危険な場所に行くやつには普通より割高にしてるんだよ」
この老人、根は優しいらしい。おそらく、割高な料金で少しでも危険のある場所へ行く気を無くそうとしているのだろう。
「よし、帰ってくる時はこの鈴を3回鳴らすんだよ」
そう言って老人が渡してきたのは、細いチェーンの先に丸い銀色の鈴が着いているネックレスだった。
アメリアと■■■はそれを受け取ると、転移の魔法陣の上に立つ。
「いくよ!転移!!」
老人の声と共に、アメリアと■■■は姿を消した。
*******
「よし!着いた。アメリア!今日の課題はその剣で魔物を倒すことだ!!」
「分かった」
少し小高い丘の上に転移した2人は魔物を見ていた。
「私はここで見てるから、ピンチになったら笛を吹くように!」
「師匠、騎士団がいるみたいなんだけど....」
アメリア達のいる所から遠くの方に騎士団がいる。もし、見られたら教会に何を抗議されるかたまったものではない。
「大丈夫だって!騎士達も戦うだろうし、バレない!!」
「はぁ.....」
そうだ、こういう師匠だったと、アメリアは諦めた。
「うん、死なば諸共だね。師匠」
「なんでバレる前提なんだ!!」
いつも通りの掛け合いだ。あの日から何も変わらない。アメリアはこの日々が終わらないで欲しいと思った。
「私が合図をするから、それで行け!」
「うん」
■■■がぶつぶつと何かを呟く。そして、――――
「行け!!!」
その声を聞いた瞬間、アメリアは魔物目掛けて突っ込んで行った。
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