不死身の聖女の弟子

少女と先生

〜 数百年前 〜


――ある少女と先生の会話――




『先生、どうして死んじゃいけないの?』


無垢な瞳の視線が、先生と呼ばれた相手に対して注がれる。問い掛けた少女は疑問に思っていた。

何故、不死の能力を持っていながら死んではいけないのか。何故、「先生」はそんなことを言うのか。


『ん?死んではいけないなんて言っていないよ。出来るだけ、死ぬなと言っているんだ』


『どうして?』


教会の人達からは、不死の聖女は囮や盾として役に立たなければならないと教えれた。それは、死を前提とした言葉だ。

だが、そういう役割である筈なのに、「先生」は死を前提にしてはいけないと言い、少女に戦う術を教えた。


『騎士団に入ったら分からるだろうが、それだと意味が無いかもしれないな....』


『―――?』


少女は首を傾げる。そして、自分の疑問にまだ答えられていない「先生」の言葉を待つ。


『わざわざ、庇おうとしたんだよ。死なないって相手は分かってた筈なんだけどな....』


少女に言うのではなく、まるで自分に言い聞かせているようだ。「先生」はどこか遠くを見ている。


『馬鹿だと思ったよ。でも、胸が詰まったような感じがしたんだ。私も、不死の聖女は死を前提にしなければならないと教えれた。その時まで、ずっとそれは正しいと思ってたんだ』


『正しくないの?』


『...正しくはあるんだろうな。私達は死んでも生き返る。だから、死を前提にして立ち回るという考えも間違ってはいないんだ』


そう、間違ってはいない。その特性が不死の聖女の最大の武器。だが、





『―――別に、自分から身代わりになって死にに行く必要は無いだろう?』





―――だから、強くなればいい





と、「先生」は言った。死にに行くのではなく、助けに行けばいい。


その為に、少女を強くしようとしているのだと。


『分かったか?』


その問いに、少女は



『分かんない!先生のは答えになってないよ。』


あっけらかんと言った。「先生」は少女の言葉に呆気に取られた後、『アハハハハ!』と大笑いをした。



『そうか、すまなかった。つまりだ!簡単に言うとな、相手と自分が傷付くからだ』


『どうして傷付くの?』


『お前は、私が死にそうになっているのを見たらどう思う?』


『んー、胸が痛くなると思う...』


『そうだろ?私は不死の聖女なのに、だ。それと一緒だよ。不死の聖女だと分かっているのに助けようとするお前みたいなやつが騎士団には居るんだ。だから、相手が庇わなくてはいけない、ではなく、あいつなら大丈夫だ。って思わせられるぐらい、後相手を助けられるというレベルまで強くならなければいけないんだ』


『そうなの?』


『あぁ。私個人の意見だがね』


肩を竦めて、「先生」が言う。少女は「先生」の事を真っ直ぐに見つめる。まだ、分からないといった様子だ。


『まあ、そのうちお前も学ぶさ』


そう言うと、「先生」は少女の頭を撫でた。


『将来、お前にも弟子が出来るだろう。その時にも、教えてやれ!死にに行くんじゃなく、助けに行けってな!!後、強くなれって!』



少女は首を傾げるばかりだったが、「先生」はそんな少女を見て大声で笑った。







そして、今に至る

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