第18話

「師匠、魔物大体倒したから戻ってきた」

「ああ、見てたぞ。騎士達に見つからなくて良かったな!」

「ギリギリだったけどね」


見られていたと気付かなかったアメリアはこの後に、「鮮血の乙女」と呼ばれるようになることを知らない。


「じゃあ、戻るか!」

「うん」


■■■とアメリアは鈴の着いたネックレスを取り出す。そして、鈴を3回鳴らした。



チリン、チリン、チリン



鳴らした瞬間に鈴が割れて、光が溢れる。光は2人を包み込むとその場の空気に溶けるようにして消えた。



******



―――数日後―――


教会で訓練をしていたアメリアの元へ■■■が走って来た。


「アメリア!お前、騎士達の間で『鮮血の乙女』って呼ばれてるぞ!!」

「.....え?」


■■■は偶に騎士団に行くことがある。魔物の殲滅戦に戦闘員として呼ばれることがあるのだが、その呼ばれて騎士団に行った時に、数日前の殲滅戦に白髪を乱しながら、魔物と戦う美しい少女がいたという話を聞いたのだ。


数日前、白髪、魔物と戦う。どう考えてもアメリアのことにしか思えなかった。そんなわけで、■■■はアメリアにその事を伝えようと走ってきたのである。


「師匠、バレないって言ったよね?」

「私もバレるとは思っていなかった。想定外だ!」

「結構離れてると思ってたのに....」


騎士達がいる所からだいぶ離れていたと思っていたアメリアだったが、騎士達はアメリアが思っているよりも優秀らしい。あの距離で見えるとは想像がつかなかった。


「マズい!先生に知られたら何を言われるか――――」


その時、■■■の背後に誰かが立った。


「何か知られたら都合が悪いのかしら?■■■」


■■■は壊れたロボットように、ぎこちなく首を後ろに向ける。

背後に立っていたのは、柔らかく風に靡く空色の髪、薄く細められた稲穂色の瞳を持った、30代くらいの美しい女性だった。


「レスカート....」

「あらあら、『先生』でしょう?可愛い馬鹿弟子」


女性の名前は「レスカート」と言う。不死の聖女では無いが、■■■に戦闘訓練を施した。正に■■■にとって、先生のような存在だ。


レスカートは歳を取らない。■■■が最初に出会った時から、今の姿のままその美しさを保っている。

神なのか人なのかすらも分からない。ずっと昔から、この教会のトップにいるのだ。


「それで?どんな楽しい話をしているの?」

「いや、その...」


アメリアの前では明るく、何の悩みもないように見える■■■だが、レスカートの前ではそうでは無いようだ。

細められた稲穂色の瞳が、全てを見透かすように■■■を貫く。


「まあいいわ。こうして戻って来たようだし、ゆっっくりと話しましょうね」

「え?ちょっアメリアーー!!」

「...責任、任せろって言ったよね。師匠」

「アメリアーー!!!!!」


アメリアは■■■を裏切った。無事に戻って来られるよう小さな声で祈りを捧げる。


■■■の肩に手を乗せたレスカートはそのままズルズルと、■■■を引きずって行った。


■■■がどうなったのか。それはまた別のお話。


因みに、この出来事以来、■■■がアメリアを魔物狩りに誘うことは無くなった。





▼▽▼▽▼▽




「――――と、言う訳です」


ことの顛末を話し終えたアメリアは、ララの反応を窺った。


「アハハハ!本当に面白かったよー。それにしても、レスカート先生か、元気かなー」

「元気にしておられると思います」


レスカートは教会の人々、全員にとっての先生だ。ララも訓練を受けた記憶がある。


「ありがとうね、話してくれて。....後、ごめん、思い出させて」

「.....いいえ。楽しい記憶はいつ思い出してもいいものです」


ララは静かにアメリアの頭を撫でる。そして、殊更明るくアメリアに言った。


「よし!じゃあ、殲滅戦も終わったし約束のスイーツのお店連れて行ってあげる!!」


アメリアは嬉しそうに瞳を輝かせた。


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