第20話

今回はララ視点です。













―――アメリアとララがスイーツを食べに行く1日前。


(んー、他の人も誘おうかな〜)


ララは自分の部屋で考え事をしていた。今日はアメリアと出掛ける予定なのだが、たまには他の友人とも会いたいと思ったのだ。


「よし、クレアを誘おう!」


「クレア」とは、アメリアの友人である女性騎士だ。騎士団に入った頃のララは、よくクレアにお世話になった。

年齢は一緒だが、クレアはララにとって姉のような存在だ。


思い立ったが吉日とばかりに、ララは早速クレアの部屋へ向かった。




「クレア〜、アメリアと一緒に出掛けるんだけど一緒に行かない?」


ノックをして、部屋に入る前に要件を言う。いつものクレアならノックがしたら直ぐに返事をするのだが、今日はララが要件を言って暫くしてから


「.....ララ?...ごめん、今日は帰って」


と覇気のない声で返事が返ってきた。明らかに元気が無い。


「クレア?大丈夫!?」

「.......うん」

「大丈夫じゃないじゃん!入るよ!!」


強行突破に出たララ。クレアが何かを言うより早く、ドアを開ける。


部屋の中は真っ暗だった。床に物が散乱していて、几帳面なクレアらしからぬ有様だ。そして、ベッドの上には膝を抱えたクレアがいた。

しかし、いつもの明るい笑顔は無く、肩まである髪は乱れ、目元は赤くなっている。


「どうしたの!?」


驚き、クレアに駆け寄るララ。何があったのだろうか。


「―――――...たのに」

「何?」


震える唇から言葉が漏れる。何もかも諦めたような覇気のない声に、聞いている方が痛々しく感じる。


「一緒に....暮らそうって...言ったのに」


その言葉で何があったのか、ララは全て悟った。クレアにはとても大切な恋人がいたのだ。

役目を終えたら、一緒に暮らす約束をしているのだと、瞳を輝かせて話すクレアのことをララはよく覚えている。


「クレア...その...」

「分かってたんだよ?お互い、そういう危険がある仕事をしてるって......」


クレアの恋人は殲滅戦で亡くなったのだろう。言葉にしなくても嫌というほどその雰囲気で分かる。


「手紙も、殲滅戦がある度に書いてたし....ちゃんとそういう事が、あるかもしれないって、覚悟もしてたのに....」


ララは唇を噛み締める。ララとしても、殲滅戦で亡くなる人は何人も見てきた。しかし、近しい人の大切な人が亡くなった経験は無かった。


どこか自分は、そういう事とは無縁だと思っていたのかもしれない。しかし、自分の身近で起きて初めて実感した。


(私も友人を失ったら、壊れるのかな)


ララには恋人はいない。自分でもポジティブな性格だと理解しているので、そういう事があっても酷く悲しみはするが、立ち直るだろうと思っていた。


しかし、そんな思いも目の前にいるクレアを見れば、立ち直れると言えなるのか分からなくなってしまった。


ララにはクレアの気持ちは本当の意味で分かるわけでは無いし、分かるなんて言うつもりも無い。それでも、自分に出来ることは何かと考えて、


「クレア、肩貸してあげる。涙なんてもう枯れたでしょ?」


ララはクレアの隣に座り、頭を肩に傾けさせた。

クレアは大人しくララの肩に頭を乗せて、手をララの背中に伸ばした。


「.......」


強く抱き締められる。いつの間にか、ララの肩は水に濡れていた。


「......会いたいよぉ..」


涙声で言葉が紡がれる。今日は、もうここから動けないだろうと思ったララは、心の中でアメリアに謝った。


そして、クレアが泣き止むまでララは、ずっとその頭を撫で続け、抱き締めていた手を離さなかった。









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