ちょっぴり不思議な王太子妃
「とても可愛らしい子ね。さすがティタン様だわ」
ニコニコとした女性がミューズの側に座る。
本日部屋に来たのは王太子妃であるレナンだ。
ティタンの兄であるエリックの妻。
女性にしては少し背が高い。
癖のない銀髪はそのまま下ろされており、瞳と同じ青いドレスを纏っていた。
すっとした鼻筋と長い睫毛、大人の女性という印象だ。
青い瞳はミューズへの好奇心からか興味からか、キラキラとしている。
女性同士の会話ということでティタンは、部屋から出されていた。
たまった仕事もあるそうだ。
その後ろには彼女の護衛という女性が付き添っている。
緑色の髪をして、睨むようにじっとミューズを見つめていた。
ミューズはその視線に、少し居心地悪さを覚える。
自分の立場を考えれば、仕方ないことなのだけど。
「わたくしはレナン。ティタン様の義理の姉となります。ミューズ様がティタン様と一緒になってくれればとても嬉しいわ。あぁでも返事は保留中なのよね。ごめんなさい」
「いえ、こちらこそすみません」
捲し立てるようなレナンの話し方、やや興奮しているようだ。
ミューズは自分の我儘だと自覚しているため、謝罪の言葉を述べた。
「いいえ良いのよ。大事なことだから、すぐに返事はできないわよね。でもわたくしやエリック様はミューズ様が家族になるのを望んでいるわ、いじめたりしないから、安心してね」
ずっとニコニコとしている。
屈託なく笑うその顔は裏がなさそうだ。
寧ろ無さすぎて、心配になる。
王太子妃という立場であれば、もっと表情や気持ちを隠したり、駆け引きのある言葉を使うのではないのだろうか?
不思議な女性だ。
レナンはミューズの手を握った。
「本当に、助かってよかったわ。色々なお話は聞いていたけど、わたくしは何も出来なかったから…」
一転して今度は泣きそうな表情をする。
感情表現が豊か過ぎて、少しティタンと通ずるものを感じてしまった。
この二人の間に挟まれている、エリック王太子はどのような人なのだろうか。
リンドールにいた時の噂話では、氷で出来た人形のようだと聞いたことがある。
「ここにいる間わたくしを姉だと思って頂戴。何でも相談していいからね」
話の区切りを待ち、チェルシーがお茶を入れ、お茶菓子などをテーブルに用意していく。
「レナン様、こちらをどうぞ。ミューズ様もお召し上がり下さいね」
「ありがとう、チェルシー」
「頂くわね」
レナンもミューズもゆっくりと紅茶を飲む。
「それでミューズ様は実際、ティタン様のことをどう想ってるの?保留とは言え、嫌っているとは聞かないわ。ここだけの話で教えてほしいの。誰にも言わないから」
レナンは真っ直ぐにミューズを見つめた。
ワクワクとした顔で見られてミューズは返答に迷ってしまう。
「えっと、そうですね…」
出会いから振り返る。
「とてもお優しく、真っ直ぐな方ですね。好きですが、結婚というとまた違う気がします…」
「好きと言う言葉を聞けてよかったわ、全く脈がないわけではないだろうし」
甘酸っぱさを感じ、レナンは自分の婚約の時を思い出したわ。と照れたように笑う。
「お似合いなのに勿体ないわぁ、キュアもそう思わない?」
「思いません…」
キュアという女性は鋭い視線でミューズを見た。
「何故このように可憐で美しい女性が、ティタン様を慕うのですか?!あぁ、男が憎い!!」
くうっと呻き、膝をつく。
「ずるいです、エリック様もティタン様も、このような素敵な女性たちに好かれるなんて…!ミューズ様はティタン様のどこに惹かれたのですか?財力ですか?それとも権力ですか?あの方のどこに魅力を感じたのですか!!!」
急激な変化と詰め寄り方にミューズはすっかり怯えてしまった。
「落ち着きなさいキュア」
レナンがお茶菓子を頬張りながら、のんびりとキュアを止めた。
「そういう話ではなかったわよね?どこの話を聞いてたのかしら。それに、ティタン様とミューズ様が結ばれれば、可愛い女性が増えるのよ?それでは嬉しくないのかしら?」
はっ、とキュアは正気に戻る。
「そうですね。美女が増えるのは喜ばしい事です。オスカーに頼んで相応しいドレスを用意させましょう、あいつは男ですが、センスがいい」
コホンとキュアは咳払いをし、ミューズから離れる。
「皆があなた達の仲を応援しているわ。イジメる者がいたら、わたくしがやっつけるから安心してね」
むんっと拳をつくり、ミューズを励ますようにしている。
助けられてここに来てから驚く事が多いと、ミューズは苦笑いを浮かべるばかりだ。
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