心配性

「ねぇマオ、どうしてティタン様やあなたは、あそこにいたの?」


食事を終え、体を清めたり着替えをした後、横になりながら尋ねた。


はしたないとは思ったが、体力回復の為横にさせられたのだ。


眠る間までという事で、マオはもう少しミューズの話に付き合うことにした。

一人になるのはまだ心細いと言われれば断れないし、断る理由も特になかった。


「僕達はあなたに会いに行く途中だったのです」

「私に?なぜかしら?」

そんな約束をしてただろうか?


しかし自分への手紙や知らせは全て王妃のジュリアが握っている。


もしかしたらそういう便りが来ていたかもしれない。


「手紙など受け取れなかったから、約束を反故にしてしまったかもしれないわ。ごめんなさい」

「いいのです。大事な手紙ではありましたが、読めなかったのはミューズ様のせいではないですから」

「ティタン様が私に、一体何の用事だったのかしら?」


隣国だが、面識は少なかったはずだ。

母が亡くなってからは、特に交流の場から足が遠のいている。


「後で本人に聞くといいのです。内容についてはティタン様しか知りませんし」

「そうね、そうするわ」


何はともあれ、彼らのおかげで助かったの確かだ。


だんだんとウトウトとしてくる。


「眠くなってきたかも…」

「何かあればこれを。すぐに駆けつけるですよ」

枕元にベルを置かれる。


ミューズはそっと目を閉じ、眠りについた。






「大きい図体でドアを塞ぐのはやめてほしいです」

ミューズの部屋から出る際に、マオは無礼過ぎる言葉と共にティタンの体を押した。


「いやミューズの容態が気になって…大丈夫だったか?痛いところはなさそうだったか?」

「今眠りについたところですよ…起きたら後で呼びますので、自室に戻って結構です」


マオはため息をつく。


気持ちはわかるが、今ティタンに出来ることはない。


「あとミューズ様が起きたら、僕らが何故あの村にいたのか理由を聞かれると思うのです。大事な手紙を出していたとも伝えましたから、さっさと告白するのですよ」


「待て!そこまで話したのか?!」

しーっとマオは咎めた。


「ミューズ様が起きるです、静かにするです」


ティタンは、手で口を押さえる。


「その、まだ心の準備が…」

「リンドールの王宮まで乗り込むつもりだった人が何を言うですか。それにちゃっかり自分の隣の部屋にミューズ様を休ませるとは、そういうつもりてすよね?」

「いや、それはチェルシーが手配しただけで…」

「婚約の打診を送った時から用意していたのは気づいてるです。もう隠さなくていいです。皆も知ってるですから」


隣室は、婚姻を結んだ相手用の部屋だ。

国王に許可を取り、改修までさせている。



「…マオ、もう止めろ。ティタン様が羞恥で困ってる」


護衛騎士のライカが、口を開く。


ミューズに何かあってはならないとライカは護衛の任を受けていた。

その為ずっとドアの前にいて、二人のやり取りを聞いていたのだ。


口を挟む必要なしと黙っていたが、さすがにティタンが憐れになる。


「だめです。ここまで用意しておいて、あと一歩が踏み出せないヘタレ王子には、まだまだ僕の言葉は生温いのです」

「あぁ、まぁ、それはそうだが」

ヘタレには同意するが、人とはそういうものだ。


いざとなると、臆病になる。


「ティタン様はミューズ様の命の恩人です。いけます、大丈夫です。駄目だったら僕が骨くらいは拾うのです」


「後押ししたいのか、止めを刺したいのか、どっちだ?」

マオの言葉にライカは首を捻る。


ティタンは先程から葛藤していた。


戦いなら頼りになるのに、こういう感情のやり取りに疎い。


尊敬する主の、そんな人間らしい部分がライカは嫌いではなかった。


しかしライカが次にかける言葉は決まっている。

穏やかな空気を取り戻したかった。


「ともあれティタン様はどうぞお部屋にお戻り下さい。何かあればすぐに知らせます。マオもだ」


ライカは自分の仕事のため、二人をこの場から追い払うことと決めていた。



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