リンドール王妃

リンドールでは王妃とその娘が高笑いをしていた。

「ようやくあの邪魔者は消えたのね?」

「ええ、そうよ。毒杯を飲ませ、この目で血を吐くところを見たわ」


王妃のジュリアはあの光景を思い出す。

青ざめる顔、苦悶に満ちた表情。

美しさの欠片もない、惨めな死に様。


「これでこの国で一番美しいのはあなただわ。まぁ前から一番キレイだけど」


ジュリアは娘のカレンを優しく撫でて、その美しさを褒める。


豪華なドレスと豊かな金髪。

青い瞳は爽やかでパッチリとしている。

可愛らしい唇はぷくっとしており、桜色をしていた。

自分の若い頃に似ていると、自慢の娘だ。




ジュリアは前王妃リリュシーヌと従姉妹で、ミューズとカレンは再従姉妹となる。


王妃となったのは、リリュシーヌが突然死してしまったからだ。

側室を持っていない国王のため、形だけの婚姻を取らせた。


ジュリアはリリュシーヌの従姉妹で、公爵家ものであるから、血筋的には問題がない。


王妃候補でもあったこと、そして公爵も病で亡くなってしまったので、領地を王家に返して、この王宮に来たのだ。


王妃がいなくても治世は出来たかもしれないが、今の国王は病がちだ。


起きていられる時間も少ない。


強引に周囲を説得し、ジュリアが王妃の座についた。


ジュリアの働きぶりはまぁまぁだった。


王妃候補として昔に勉強はしていたし、公爵亡き後は領地経営にも携わっていた。



懐疑的な者たちも、仕事のできるジュリアを徐々に受け入れていく。


だがジュリアは油断せずに、次の国王を担ぎ上げられるより早く、重臣の位置に自分の派閥の者を置いた。


病がちである今の国王を退位させるのは、ジュリアの計画上まだ早いのだ。

しかし周りをジュリアの息のかかった者で囲えば、もう迂闊には口も手も出せないはずだ。

多数の意見に反対は出来まい。


ジュリアがここまで強引にすすめ、仕事を頑張るのは理由があった。




昔から、リリュシーヌが嫌いだからだ。

そして王妃となるべきは自分だったはず、と心の底から信じている。


ジュリアとリリュシーヌは共に公爵家であり、王妃候補であった。


ジュリアは美しさや薬学など、あらゆる面でリリュシーヌを上回っていると自負していた。

しかし選ばれたのは、リリュシーヌだった。





認めなかった、認められなかった。


リリュシーヌが皆に美しいと言われる度に、あの顔がたまらなく憎らしく思えた。


ズタズタに、ボロボロにしてやらないと気が済まない。



やがて薬学で勉強したことを、今度は毒薬づくりへと転換していった。


薬も適量ならばいい。

しかしそれを超えるならば毒だ。


いつかリリュシーヌに報いを受けさせようと思っていた。

ジュリアの方が美しさも教養も上だと教え込まなければならない、その一心で毒薬作りを行なっていた。


公爵夫人であったジュリアは、屋敷に温室を作り、様々な薬草も毒草も育てた。

公爵である夫は薬学に疎いため、却って好都合だった。

ひっそりと良くないものを栽培していても気づかないからだ。


自分を大事にしてくれて、お金も惜しみなく出してくれた。

良い人だった。




慈善活動や慰問も行なった。

薬の実験台のため。


全ての者に毒薬を与えるのではなく、ごくごく一部の者にした。


試しすぎてはバレてしまうからだ。


あの、自分達よりも美しいとされるリリュシーヌとその娘に制裁を加えるのが、ジュリアの使命だといつしか思うようになっていった。





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