味方となるもの

「安心しろ、アドガルムが味方してくれる」

ロキは自信たっぷりにそう言った。


「隣国が何故…我らの味方を?」


フェンは疑いの眼差しだ。


縁もゆかりもないのに手を貸してくれる道理がない。


「アドガルム国第二王子のティタン殿下がミューズ様が命を落としかけたところを、助けてくれたのよ。そしてミューズ様と婚約を交わしたそうなの」

ロキの妻、アンリエッタが子ども達に理由と事情を伝える。


「ミューズを通して、俺様たちは図らずともアドガルムの王族と関係を持てた。嬉しいだろ?」


ロキは歯を見せ、ニヤリと笑う。


「現在リンドール王城に張ってある魔術の結界は、俺様が作った魔道具によるものだ。あれより強力な物をこの領に置いてあるんだが、ちと魔力が要るのが難点だな。数日なら俺とアンリの魔力で充分事足りる」


魔法だけではなく、人が入れないように出来るらしい。

それ故有事の際にしか使用出来ない。


「援軍が来るまでは大変だが、来てしまえば大丈夫だ。辺境伯領でアドガルムと協力した親父がリンドールに攻め入ってくる予定だから、こちらに余計な兵は避けないはずだ」



「外の見張りや憲兵はどうします?」

キールの疑問。


結界は外からの者を阻む。

しかし内にいるもの、リンドール国の手先となっている者達をどうするのかと。


「お前が倒してこい、キール。親父にしごかれた剣の腕を生かし、捕縛すればいい」


「俺が?」

無茶を言う。

一介の兵でしかない自分がそんなことを出来るとは思えない。



「お前の祖父はあの剣聖シグルドだ。名に恥じぬよう頑張れよ」 


ロキの軽い口調に、フェンが咎めた。


「お待ち下さい、父上。流石にキール一人では心配です。俺も行きます」

フェンの言葉にロキはダメだと言った。


「フェンとシフには別な役割がある。余計な魔力は使うなよ」

他にも考えがあるのだと、ロキは言う。



「ここは王都に近い。普通に進軍するよりは、ここから兵を進めたほうが王城制圧が早くなる。これは俺様が提案したことだが、ここの屋敷に大規模な転移魔法陣を用意し、アドガルムの軍隊を呼び寄せる。大人数を短時間で転移させるから、滅茶苦茶魔力はいるが、あちら側でも魔力のあるものがいるからな。何とかなるだろう」


一気にここから攻め入るつもりだ。


外側からはエリックとシグルドが進軍する。


ここ、内側からはティタンとロキが進軍する予定だ。


「これから俺たちの捕縛の為と反発する領民のの制圧のため、リンドールの軍が派遣される事が予想される。

その際一度結界を張り、進行を食い止める。

転移魔法を使用する際に一度結界を解き、終えたら再度結界を張る。

俺様の魔力なら可能だ。

外側の兵はそれなりにいるだろうが、アドガルム軍が道すがら倒してくれる手筈だ。


ミューズも転移魔法時魔力を出すといってくれが、あの子のは温存だ。

ティタン王子とリンドール王城に向ってもらい、王妃派の者に示さねばならない。正統な血筋を」




それを聞いてキールは心配になった。


「ミューズは戦いに向かない。そんな危ないところへ行かせるつもりなのですか?」

「そうです。ミューズ様に何かあったら、お父様はどうされるおつもりですか」

シフも抗議した。


「暗殺されかけたミューズはそのまま他国に逃げる道もあったんだ。それをせず、ティタン王子の婚約者となってでも、リンドールを取り戻すという覚悟を持ったのだ。逃げ出すことなく戦地に赴くあの子を尊重し、力を尽くすのが俺様達の役目だ」


ロキはミューズの意志を尊重する。


亡き姉の残した愛娘が望むなら、叶えるはリリュシーヌの弟である自分の役目だ。




「一応聞こう」


ロキは家族一人ひとりの顔を見る。


「アンリエッタ、フェン、キール、シフ。戦いから逃げるなら、俺様が転移魔法にて好きな国へ行かせてやるぞ。一度行った場所なら行けるのだが、俺様は殆どの国に行った事があるからな。選び放題だ」




ロキの言葉に誰も答えない。


「父上。俺達は公爵であるあなたの命に従います。命はなくとも自分達の従姉妹を守るため、そして故郷を奪われないためにも戦いに参加します」


フェンは代表して答えた。


ロキは満足気に頷いた。


「では、俺様と共に行こう。みな、死ぬんじゃないぞ」




ロキは楽しそうに笑った。



「魔力を思う存分奮うのは久々だ。なぁアンリ?」

「そうですね、私の為に戦った時以来では?」

「あんなの本気じゃないぞ?」




アンリエッタは魔法大国ムシュリウの出自だ。


ロキはアンリの婚約者と魔法対決をして打ち負かし、アンリを自国へと連れ帰ってきた人だ。


相手もなかなかの魔力を持っていたが、ロキの比ではない。




魔道具の修行をしつつムシュリウに滞在していたのだが、そこでたまたま見かけたアンリエッタが気になった。


婚約者からのアンリエッタへの扱いが糞すぎると、ロキは勢いのまま決闘を申し込んだ。




異国の者が、魔力の高さを誇るムシュリウの民に喧嘩を売るとは、王族をも巻き込む決闘となってしまった。


ロキは自分が勝てば、アンリエッタを王命のもと譲り受けさせてほしいと話し、もし負ければ、今まで作った全ての魔道具の権利を譲ると交渉した。




アンリエッタは止めた。


普通の人がムシュリウでも魔力の高い貴族に喧嘩を売って、ただで済むとは思えないと。

ロキは自信たっぷりだった。


「俺様を信じろ」




その後完膚無きまでに叩きのめし、体面を潰されたとムシュリウの魔術師団と戦ったが、王城まで半壊させたしまったので、ロキとアンリエッタを追わない事を条件に国を出た。

当たり前だが、ロキはムシュリウを出禁となっている。






「さて、あとは城内の結界だが、そちらの解除はあるものに頼んでいる」


少し前に結界に触れた魔力。

ここより弱い結界とはいえ、ミューズを守るために張っていたものだ。




その中で魔法を使えるなんて。


回復魔法は問題なく使える。

しかし、害を為す魔法は打ち消すはずだった。


「あの中でも普通に魔法が使えるとは、面白いな」


アドガルムに聞くまでは、誰の魔法か検討もつかなかったが、計画を聞いて納得がいった。


ならば有利になれるようにと、その魔力の主に結界の解除方法を教えた。


もう二十年くらい前のものだから、王城でも知っているものは少なくなっているだろう。


時折結界の維持のため魔力は注がれているようだが、城に操れるものなどいない。




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