告白と失恋

「その条件とは何でしょうか?」


国を助けたいし、王妃を止めたい。


自国のために力になりたいとは思うけど…。


「俺と結婚してほしい」

真摯な眼差し。


その想いには薄々気づいていた。

彼の気の迷いだと、期待もした。



「俺の婚姻相手となれば、俺は君のために力を奮える。妻のために何でもするのが夫だろう?」


頼りになる人だとは感じている。

権力も財力も実行力もある人だ。


マオやチェルシー、ルドやライカ。

彼の配下を見ていればわかる。

彼は命じる立場にいて、その一言で人が動くのだ。


本当の王族だ。

誰にも顧みられなかった、自分とは違う世界線の人。


「私は、その…」


あぁどう伝えよう。


「ティタン様との結婚は考えられません…」

ティタンは固まっている。

拒否されたとあれば、それは当然の事だろう。




「それは今後変わるということはないですか?」

マオが食い下がる。

ここまでしてもらった恩はある、ミューズは返答を懸命に考えた。



「嫌い、というわけではありません。私はティタン様の事をあまり知りません。私の事も、多分…。ですので、想いに応えることが出来ないのです」


ティタンの一途な想いに応えられるほどのものが、今のミューズにはないのだ。



「私に、ティタン様の事を教えて下さい。そして私を知ってください。あなたに相応しいかどうかを」


ミューズは正直な気持ちを伝えた。

まだまだ伝えたりないが、これからゆっくりと話し合えればいいなと思ったのだ。


あわよくば、その愛を手放して欲しい。

この人の足手纏になりたくない。


「あぁ、何でも聞いてくれ。君にならどんな事でも知ってほしい。俺も知りたい」


完璧に振られたわけではないと、ティタンは安心した。

ほっとして勢いこんでミューズの手を握ってしまう。


驚いたミューズだが、優しく、ただ受け入れた。


「す、すまない」

ティタンは慌てて手を離し、距離を取った。


「これから改めてよろしくお願いします」

ミューズが何も持たぬ、つまらぬ者だとわかれば自然と離れていくだろう。


それまでの間くらいは。


ミューズはベッドの上で、頭を下げる。


「こちらこそ、よろしくな」

にかっと笑うティタンの表情は少年のように、屈託のないものだった。






あれからミューズの体調も回復してきて、起きられる時間が増えた。

部屋の外にはまだ出られないが、本を読んだり、ティタンと話をしたりと充実している。


ミューズは順調に体力を取り戻せていた。



今日は外遊から戻ったという、第三王子のリオンと、その従者がミューズのもとへと訪ねてきた

ティタンも同席している。


「ミューズ様はじめまして、リオンと申します」


ティタンとは全く似ていない弟だ。


中性的な美少年といった風貌である。


長い青髪を後ろで結び、背はミューズよりやや高いものの、まだ顔からは幼さが抜けていない。


子どもと大人の中間のような、そのような印象。


落ち着いた雰囲気と声が、実際の年齢よりも大人びて見せている。


「はじめましてリオン様。ミューズと申します。皆様に助けられ、優しさに感謝の気持ちが尽きません。何とお礼を伝えたらよいか」

「あまりお気になさらずに。毒からの回復はなかなか大変でしょうから、ゆっくりと体を休めてください。顔を出すのが遅れてしまいましたが、こちらのカミュもあなたにひと目会いたいと心配しておりました」


カミュは頭を下げる。

長い黒髪で表情は見えない。


「その節はありがとうございました。あなた様のおかげで、こうしてティタン様と出会うことが出来、命を失わずにすみました」


カミュはグッと拳を握った。

「いえ…俺がしっかりと王妃を止められなかったばかりに、ミューズ様には辛い思いをさせてしまいました。せっかく大事な髪まで切らせて頂いたのに、申し訳ございません」


深々と頭を下げられ、ミューズは戸惑う。

「そんな事ないですわ。カミュ様のおかげで助かりましたもの。ティタン様に居場所を伝えてもらってたから、助けられた命です。あなたの情報がなければ、私は今生きていなかったでしょう。髪なんて、また伸びますわ」


「…そのような言葉、ありがとうございます。無事を確認出来たとの知らせには安堵致しましたが、こうしてお顔を見られ、とても嬉しく思います。そして、俺のことはただのカミュとお呼びください。ティタン様の大事な人であるあなた様ですから、俺への敬称は不要です」


「ありがとう、カミュ」

ミューズとティタンの話はやはり皆が知っているとわかる言葉だった。


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