ガードナー領の結界と助力者

「さぁ、魔力を注ぐぞ!」

ロキとアンリエッタは魔道具に魔力を注ぎ、領地内に大規模結界を張る。

自分らを捕らえようと来たリンドール国の兵士はこれで足止めを出来るはずだ。





ここからティタン達が来るまで、およそ一昼夜程度。

結界を維持して外側にいるリンドール兵を防ぎ、中に残っているリンドール兵はキール達が何とかしなくてはならない。


憲兵の何割かは王妃の手のものだから、それらの捕縛が必要だ。


万が一領民を人質に取られてはたまらない。




「わお、凄い」

オスカーはロキの結界が張られるのを、内側からきゃあきゃあとはしゃいで見ていた。






「ガードナー家の皆様。オスカーと申します、よろしくお願いしますね」


うふふと笑う白髪の騎士に、初めて会った時はロキ以外のガードナー家の者は、皆驚いていた。


騎士ではあるのだろうが、派手なメイクと服には派手な刺繍。

女性のような言葉遣いと、情報量の多さに呆気にとられてしまった。 


「ようこそオスカー殿、助力に来てもらい有り難い。アドガルム国王、アルフレッド陛下から話を聞いている。あなたは王太子様の護衛騎士だと聞いたな」


キールはますます驚いた。




生半な腕前では主君を守る護衛騎士にはなれない。

変な見た目と言動に反して、オスカーの腕前は凄いのだろう。


「普段はエリック様の護衛をしてまーす。どう?少しは見直してくれた?」


キールは無言で首を横に振った。






「さて、お手伝いしてこいって言われたんだけど、どこから回る?」

帯剣をし、外に出た。

「まずは普通に門の外にいるあれですね」


見張りをしていたリンドールの兵がガードナー家の門番と言い争いをしている。


急に結界が空を覆ったので、驚いたのだろう。

ガードナー公が怪しい、屋敷に入れろと騒いでいた。


その時抜き身の剣が見えたので、キールも剣を抜き走り出している。


リンドールの兵は強行突破しようと剣を抜いたのだろう。


その横をオスカーも並んで走る。

こちらも剣は抜いていた。


「どうする?取り敢えず縛る?」

オスカーの問いにキールは迷う。

「出来れば殺したくはないですが…」


キールの言葉にオスカーはグンとスピードを上げた。


「気をつけて下さい!この結界の中では魔法が出しづらいですよ!」


魔力の強いロキが張った結界なので、相当の魔力持ちでないと、この中魔法は出せないそうだ。


「そうなの?やぁねー」


オスカーは見張りで来た兵士に声を掛ける。

「ねぇ、あなた達。ここに何の用?」


門番に剣を突きつけている兵士達が、オスカーを見た。


一瞬注意が逸れたのを見て、オスカーは拾っていた木の枝を兵士達の方へと投げる。


ただの木の枝だったはずだ。


だがオスカーが魔力を込めたそれは、形を変え、大きくなった。


生き物のようにうねり、兵士達の体に巻き付いて動きを封じた。


しなやかな動きを見せた先程と違い、元枝は動きを止めると固い木になって外れなくなった。


「何だこれは?!」

リンドールよりガードナー家を見張るよう言われていた兵士は困惑した。


見たことのない魔法だ。




オスカーの魔法は植物に魔力を込めて、意のままに操るもの。


火や風といった派手な攻撃魔法と違うし、制約もあるが、使い方次第では便利である。



「ロキ様の結界は攻撃魔法を封じるって聞いたけど、アタシの魔法はただ植物を操って動きを止めるだけだわ。それに元があるから魔力消費も少ないのよ」


オスカーが、魔力を込め成長させ、動かすだけ。

怪我をさせる気も殺意もない。




無から有を作るより、実は魔力消費も少ないのでコスパがいい。


木ではなくとも草などを成長させて、絡めたままにしておけば、縄の代わりにもなるし、楽だ。




「派遣された理由がわかったかしら?」

「そうですね」


捕縛するという点では、いい能力だ。


「だけど欠点もあってね。発動が少しだけ遅いの。成長させるものにもよるけど、大きければ尚更時間かかっちゃうわ。その時は助けてちょうだい」


「その腰にある剣で何とかしたらどうだ?」


護衛騎士、と名乗るのだから、剣の腕も凄いのだろう。

キールはそう思ったのだが。



「無理無理、アタシ護衛騎士で一番弱いのよ」

「はっ?」

オスカーの言葉に驚いた。


曰くオスカーは護衛騎士としては割と新米な方で、幼少期より騎士として鍛えていたわけではないらしい。


だから他の護衛騎士と比べると、どうしても劣るという。


「だから、こっちなのよ。大多数と戦うより、少人数の捕縛の方がいいの」


キールとオスカーは、ガードナー邸の門の前に立つ。

急な結界が張られたのだ。

兵士達は当然ここを怪しみ、来るであろうと推測した。




「二手に分かれましょう、ここの守りはお願いします」


キールは領内を見て回りたいという。

不埒な者が領内で暴れていないか心配だ。

「危なくない?」

「大丈夫、俺の味方をしてくれる者もいるから」


国の憲兵以外もガードナー領では自警団が存在している。


謹慎で表立った連絡は取れなかったが、彼らは今も領内で頑張っている。


諸々の事情も大雑把には伝えていた。


「アタシを信じてくれるの?ここを守れないかもとか思わない?」

ここは重要な要となる。


ガードナー邸に敵が押し入ってきては、後の計画に支障が出てしまう。



「確かに期間は短いですが、強さは重々わかりました。オスカー様ならこちらをお願いできます。ただ待つよりはある程度片付けて来た方がいいでしょう。それに俺は土地勘もあるし、領民も味方になってくれる。俺が行ったほうが効率はいい」


「わかったわ、気をつけてね。こちらも頑張るわ」


オスカーは、ひらひらと手を振ってキールを見送った。


「アタシはアタシの仕事をしましょ」


今捕縛した連中は猿ぐつわを噛ませ、庭の端に転がした。


往来では邪魔になる。


自分が守衛すると話し、門番には捕らえた者の見張りをお願いした。




次のリンドール兵が来ない内にとガードナー邸の庭木に触れていき、強固な物へと成長させる。


屋敷を守るように取り囲ませて、全方位守らせた。


表の入口だけ通れるようにして、そこにオスカーが立つ。


「さてさて、持久戦ね」


剣を持つ手に力を込めた。

ティタンが来るまでオスカーが保たせなくてはならない。

キールが無事に帰ってくることも祈りつつ、オスカーは気合いを入れ直した。




「エリック様からの命だ、俺の命に換えてもここを通すわけにはいかないな」


低い声で決意を口にする。






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