戦地に向かう心構え
リオンが書類と地図を広げた。
同じものをカミュとマオが手分けして、皆に渡していく。
「現在、リンドール国内にてシグルド様のいる辺境伯領と、ロキ様のいるガードナー領が攻撃を受けております。そのおかげでリンドールの兵が分断されており、王城にいる兵も少なくなっていると予測しています」
地図にて場所を確認しながら、リオンは話を進めた。
「全体的な兵力的の数は同じくらいと分析しましたが、全軍での進撃はしません。リンドールの国を蹂躙する為ではないからという理由と、アドガルムを守る勢力として半分から三分の一は残そうと思っています。戦のドサクサでほか勢力に国を攻め入られては、元も子もないからです。リンドールも今のところ、戦争が起きるとまでは考えてないはずだから、兵力が整う前に落としましょう」
リオンが見た限り、アドガルムが戦の準備をしている事には気づいているものの、リオンと婚約を結ぶのだから、リンドールが攻め入られるとまでは予想していないようだ。
「シグルド様のところにアドガルム兵が来るくらいは予測してるかも。リンドール国内の諍いだとしても、こちらとしては国境で起きた小競り合い…アドガルムに被害が来ないとは限らないからね」
その流れで戦を仕掛ける。
「周囲からは戦える貴族や騎士が駆けつけるだろう。しかし、与しない者も多いから、こちらが有利なのは確実だ」
リオンの調査でわかった今の政治に納得がいっていない貴族に焦点を絞り、事前に声を掛け、協力を依頼した。
アドガルムの兵を見ても手を出さないようにと。
王妃を失脚させる約束と引き換えに、見過ごすようにとお願いしている。
そうすれば領地にも領民にも手出しはしないと伝えた。
見過ごせばいいだけだから、形だけの兵を出すこともしなくていい。
薄らいだ忠義では刃向かう気力などあるはずもなく、また損をすることもないので、概ね順調に契約を交わせた。
「ちなみに兵の数的には国境への派遣を多くする。万が一にもアドガルム国へリンドール兵が流れぬよう、そしてエリック兄様がいる場所だからだ」
この戦はアドガルムも強く望んだと示したいし、エリックも兵達に任せて城でぬくぬくと待つつもりもなかった。
「皆の者もだが、エリックも充分に気をつけるんだぞ」
国王がようやく口を挟んできた。
息子達との話し合いが終わったようだ。
「ミューズよ。大変な事ではあるが、気をしっかり保って臨むのだぞ。アドガルムはそなたの味方だ」
「あ、ありがとうございます」
国王アルフレッドからの言葉に、涙が出そうだ。
ミューズがここに保護された短期間で、これだけの根回しと準備がなされていた。
謁見が敵わなかったのは、それだけとても忙しくしていたのだろう。
なぜ他国の元王女のために、この国の人はここまで出来るのだろうか。
「死んだはずの私のために、皆様、ありがとうございます…」
アドガルムにもメリットはあるのだろうが、ミューズをきっかけに起こされる戦いだ。
それに付いて来てくれる重臣達。
ミューズは感謝の言葉しか言えなかった。
「ミューズ王女。困惑されたかと思いますが…」
宰相のヒューイが口を開く。
「この国の王族は、かなり自分勝手です。民の為に自分をおざなりにしたりはしません。他国からいらしたあなた様から見たら、とても不思議に感じられることと思います」
個を捨て、多を取る。
上に立つ者なら、それが本来の在り方であるはずだ。
「ですが、この国のトップ達は平気で自分の為に動きます。他国から何度変わった国だ、と言われた事か…しかしこの国は昔からそれで上手くいっているようです。神から何らかの祝福を受けてるのでは?と言われた事もありますね」
昔からそうらしかった。
王族の我儘は最初は驚くものの、後に好転することが多かった。
「一応考えてはいるぞ。勝手ばかりしてるわけではない」
アルフレッドがヒューイの言葉に反論する。
「陛下。集まってすぐに親子喧嘩を見せられたら、説得力は薄いです」
「むっ」
ヒューイの言葉にアルフレッドは二の句がつげない。
「心配な事は多いですが、殿下達もとても精力的動いております。であれば、この戦はきっと好転しましょう」
アドガルムの宰相もそう言ってくれている。
「俺からもお願いがあるのだが、聞いてもらえるか?」
ティタンが、声をあげる。
「戦う気がない者、逃げる者は、不必要に追わないでほしい。出来るだけ被害を出したくない。大変かとは思うが、可能な限り対応してほしいんだ」
ミューズからの願いを伝えていく。
同席していた騎士団長が大きく頷いた。
「わかりました、各隊に知らせておきます」
ミューズは安心する。
それで少しでも助かる命があれば…
「ミューズ、知らぬ者に囲まれ、このような波乱に巻き込まれ、さぞ辛かっただろう…明日は辛い日になるだろうが、その辛さはここの皆で共有する。それで少しでも心が軽くなればいいのだが」
「お気遣いありがとうございます、人が死ぬこと、自分が死ぬかもしれないということを心配なされているのですよね。確かに怖くないとは言えませんが…」
自信を持って言えるのは一つだけ。
「ティタン様がいれば、どのような事も大丈夫です」
自分と共に歩んでくれると言った男性を信じると、ミューズははっきりと言った。
「任せろ!大船に乗ったつもりでいてくれ!」
信頼に応えられるよう、今日一番の大声でティタンは宣言した。
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