新たな婚約者

「あなたは…ジュリア王妃ですね」


「アドガルムへの招待状はティタン殿下へと送らせてもらいましたが…あなたがいらっしゃるとは思いませんでした」


扇で口元を隠しているが、目元だけで微笑をたたえているとわかる。


「僕が代理で出席させて頂きました。あいにくと、このような宴は久しぶりだった為、挨拶が遅くなってしまいすみません」


リオンとジュリアは二人共笑顔だ。


カミュは気配を消し、黙って見ている。


万が一自分の事がバレて、リオンとの関係を疑われては、リオンの命が危ない。


そのため距離を取り、そっと見守るにとどめているのだ。




「素晴らしい魔法でした。ここには結界もあり、生半可な魔法は使えません。それを超えるとは相当な魔力をお持ちですね」


「ありがとうございます。ご息女より許可を得て使用させて頂きました。微力ながら体力回復、そして滋養強壮の効果があります」


ジュリアは首肯する。

確かにあの鱗粉を浴びただけで、体が軽い。


「あのような魔法、どこで取得したのです?」

王妃は表情を読まれないようずっと扇で口元を隠している。



「異国にて。僕は旅行が好きなのですよ、異国の文化に触れるのは楽しいものです。そこで覚えた一つをカレン様の為に披露したく、使用させて頂きました」

リオンは両手を広げ、大仰にアピールした。


「えぇ、お母様。彼は凄い魔法の持ち主なのです。私のためにと使ってくれたのよ」

興奮気味にカレンは話す。


見つめ合う二人は両思いのように見えた。






ジュリアは迷った。


リオンの腹の内が見えないのだ。


そもそも外遊に出ていた第三王子、情報そのものが少ない。


ジュリアは後ろ盾欲しさに、アドガルムへと婚姻の打診をしていた。


王族であればいい。

魔力の高さ、そしてカレンが気に入っているのであれば、このリオンで構わないと思った。


ティタンはわかりやすい男だが、もともとミューズへとと婚姻の打診をしていたのを考えると、素直に婚約者を替えさせてくれるとは思えない。


両思いであるこの二人を結ばせた方が早いだろう。




「娘が許したというのであれば、魔法の使用は不問にします。しかしリオン様。娘を気に入って頂けたのでしょうか?あのような大掛かりな魔法の使用は魔力も体力もだいぶ消費したでしょうから」

「カレン様に喜んで頂けたのならば、それだけで良いのですよ」


目的は他にもあるのだから。




リオンは油断しない。

まだ敵地だ。


王妃がどう出るか、それで今後の計画も変わる。


「現在我がリンドールからティタン様とカレンの婚姻を打診していました。ですが、好き合う者同士の方が良いのかと。リオン様がもしカレンの良人となってくれるのならば改めて書簡を用意しようと思います」


「そうですね、僕としては異論はありません。しかし、国と国の話ですから、アドガルム国王陛下にも話を聞かねば、僕からは何も出来ません」




周囲から少し残念そうな声が聞こえる。


リオンのような魔力が強く、そして高貴な血筋の人間は、引く手数多の貴重な人材だ。


「ではすぐに書簡を用意します。その間部屋を用意しますの、そちらでお待ち下さい」


王妃が踵を返し、その場を離れる。




二人の仲が母に認められたと、カレンは嬉しそうだ。


「リオン様、私嬉しいですわ」

「ありがとうございます、頑張った甲斐がありました」


嬉しそうなカレン。

微笑むリオン。


傍から見ても、いい雰囲気だ。


魔法の使用で疲れたと、リオンはその後のダンスを断り、用意された部屋へとカミュと共に移る。




ため息をつくとリオンは遠慮なく客室のベッドに横になった。


リオンもカミュも一言も話さない。

どこで何を聞かれてるかわからないし、見られてる可能性も高い。


なので何も言わないし、何もしない。


リオンだけは目を閉じ、忙しくしていた。


先程の蝶が撒いた鱗粉を通し、目ぼしい相手と次々とリンクしていく。


鱗粉とは名ばかりで、正体はリオンの魔力の結晶だ。


あの場にいた全ての者をマーキングした。


必要な時には情報を引き出さなければならない。


今は取り敢えず王妃の動向、そして王女の様子だ。



集中するとゲンザイ何をしているか見えてくる。

(まずは僕を探るよね…)

王妃が命じたのはリオンの情報を得ること。

もしこちらに婿入りしても裏切ることがないよう弱みを掴むつもりだ。


自然な事だ。別にいい。


「ふふっ…」

リオンの口から笑みが溢れる。


「リオン様…?」

主の様子にカミュは眉を寄せた。


「大丈夫…ただ…あぁ、後で話す」


リオンが居なくなれば、カレンは堂々と他の者と話しているのだ。

先程のリオンとの事が嘘のように。


数々の男性へと靡いている。

高位貴族なら誰でもいいらしいな。



予想通り過ぎてリオンは声を殺して笑ってしまった。




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