守るための力

この力を手に入れるまでティタンは、血の滲む努力をしてきた。


体を鍛え、身体強化の魔法を調節して、自分の動きに合った魔力の流れを作れるように何年も鍛錬をした。


イメージと体の動きが一致するよう、大きな齟齬が生じないよう、隙を与えないよう、毎日剣を振っていた。



実践ということで魔獣退治を続けた日々もある。


人相手の訓練と言うことで、他国の闇賭場にて、身分を隠し、闘士として戦ったこともある。


自分にあるのはこの膂力だけ。


ならば力であらゆるものを守れるような男になろうと、並々ならぬ思いで修行を続けていたのだ。




ルドとライカはミューズの視界に、主が入らないようにと壁となって立ち塞がる。


いくらなんでもこれ以上残虐な様子を見せ続けてはいけないと慮った。


「ルド、ライカ…お願いです。ティタン様を見せてください」


青褪めた顔でマオに支えられながらも、それでもミューズは言った。


「私の責務です…ですから最後まで見届けさせて下さい」


ミューズが戻りたいと願ったことで起こった戦だ。

目を逸らしてはいけないと決意している。


今にも嘔吐しそうなほどの血の匂い。

天井や壁にまで迸る人の肉片や血液。


ルドとライカ越しでもわかる。

酷い有様だと。


それを行うのはミューズに対して穏やかに微笑み、愛を囁いてくれていたティタンだ。


彼だけに全てを任してはいけない。


「ひぃぃっ!」

剣を捨て、逃げるものも出始めている。


このような悪鬼に勝てるわけがないと、ようやく悟ったのだ。


「ぎゃっ!」

逃げる兵を切り捨てたのは、リンドールの近衛兵。


「お前ら味方だろ、何故殺した…」

ティタンは静かな眼差しで睨みつける。


「敵前逃亡などあり得ん。反逆者には死だ」


ずらりと並ぶ近衛兵。

軽く十人はいるだろうか。


王族を守る役目を持つ者たちだ。

雰囲気が明らかに違う。


「「ティタン様、加勢を」」

ルドとライカが声を合わせてそう言った。


「いらん。だからしっかりミューズを守っていろ」




ミューズはティタンの表情に、様子に、何も言えない。


鎧も剣も髪すら血塗れになっている。


足元に転がる死体。


そして、新たな敵と真っ向から睨み合っている。


「逃げようとする者達を俺は切り捨てたりはしない。だからお前らの行いは許せん」

「ふん。ここまで人を紙切れのように殺した男が何を言う」




剣を構えた近衛兵達がティタンを囲む。




「死んだ王女を担ぎ上げて、何を企んでいる?」

「そもそも本人かどうかも怪しい」

「王妃様が確かに殺したはずだ。どこかで偽物でも連れてきたのだろう」

「アドガルムが嘘をついて挙兵したか。他の周辺諸国が知ればどうなるやら」


口々に近衛兵達は好き勝手な事を言う。




「私の事を覚えていないというのですか?!ルシアン!」


近衛兵長に向かい、ミューズは叫んだ。


「我らが主は王妃様だ。軽々しく我が名を口にするな」

その言葉と怒気に、ルドとライカは剣を構え、マオはミューズを下がらせる。


「言いたいことは終わりか?」




ティタンのこめかみには青筋が立っている。

ミューズが名前を呼んだならば、ミューズを知る人物のはずだ。


謀られたのも知っているのに、それでも尚王妃側につくとは。


ここまでティタンが力を見せつけたのに実力差もわからないのか。




「尽くすべき主を間違えたと、自身を恨むがいい」


ティタンは、容赦しない。




近衛兵だけあって、先程の兵より丈夫だった。


それだけだ。




まともに大剣に当たらぬようにしているが、別にティタンは剣だけではない。


時には蹴り飛ばし、投げ飛ばす事も行なう。

踏みつければ鎧ごと肉体を潰すことも出来た。

「半端に鍛えたもんだな。楽になれず苦しかろう」


虫の息となっている近衛兵達に見向きもしない。


血まみれの相貌で最後通告をする。



「終わりだよ、ジュリア王妃」







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