一と三の密談

ティタンと話した後、リオンとカミュは

エリックの執務室へと向かう。


「リオン、疲れてるところ悪いな。リンドールの件もやっと報告書が終わった所なのに」


年若いのに忙しく動く弟に、労いの言葉をかける。


リオンは笑顔で大丈夫と答えるだけだ。




「エリック兄様のお力になれればそれでいいんです。それよりもこちらへ来る前に少しだけ、ティタン兄様とミューズ様とお話してきました」


「二人はどのような様子だった?」

エリックも二人を気にしていた。




皆から話は聞いているが、まだ本人に会えていないから尚更だ。


「お話に聞いていた通り、もどかしい関係ですね。ミューズ様は自分に自信がないだけで、ティタン兄様を嫌ってはいません。時間をかけるか、何か、ひと押しがあればよいのかと」


リオンはそう結論付けた。


「リオンがそう云うのならそうなのだろうな。あとはレナンに色々話をしてもらって、手助けをお願いするか」

レナンはエリックの妻である。


「そうですね。女性の気持ちは女性の方がわかるかもしれません」

男女差の考えはなかなか埋められないとは知っている。

王太子妃であるレナンなら立場としてもミューズに近いし、何かと力になれそうだ。




「さて呼び出した件についての本題なんだが、これを見てくれ」

渡されたのは一通の招待状。




「…これ、どうするつもりです?」

内容を読み終え、さすがのリオンも困った顔だ。


「あの頃はまだ事が起きてなかったから、もちろん行かせるつもりだった。しかし、今行かせたらひと暴れどころか、そのまま戦をけしかけそうだ」

「エリック兄様の言うとおりだと思います」




リオンに渡したのは、リンドールからのパーティの招待状。


日付はひと月前で、宛名はティタンとなっている。


「予定ではこの時にミューズ嬢と接触を図るつもりだった。普段は病弱を理由に欠席とはぐらかされていたが、婚約の打診を送っていたし、出席すると見込んでいたのだが…」

もう一通をリオンに渡す。


日付は先程のよりも後になっている。


「侮られていますね。こちら、ティタン兄様には見せられません」

「無論見せていない。あいつがここで暴れたら止められる気がしない」


内容はミューズではなく、カレンとの婚姻を薦めるものだった。


そして、ミューズがいかに王族として相応しくないかが、つらつらと書いてあった。




ミューズとの話を断らせようとする意図もあったのだろう。


「アドガルムとの絆を強くしたくて、何とかしようとしたのだろうな。向こうにとっては、ミューズ嬢でなくてもいいと考えたのだろう。しかしこちらはミューズ嬢であることが必須だ。交渉する気もない」


ティタンがこれを見たら激怒するのは容易に想像がつく。

血筋が欲しいわけではないから、人を変えればいいという話じゃない。


ミューズでなければ、意味がない。

ティタンにとっては喧嘩を売ってるに等しい話だ。




「エリック兄様、ティタン兄様はなぜミューズ様にあそこまで惹かれているのです?好きな気持ちは見ればわかるのですが、出会いはいつだったのですか?」


婚約の打診が最近だから、最近なのだろうとは予測した。


しかし聞けばミューズは近年ほとんど表舞台に立っていない。

病弱で、という話ばかりで、人となりも何もわからない。


「リオンはリンドールの剣聖と言われる、シグルド殿を知っているか?」


「辺境伯の方ですよね。お名前だけなら存知あげております」


リオンは詳しく知らない。


しかしだいぶ戦いになれた御仁で、騎士団長も勤め上げた男性だ。

もしも戦となってしまえば、彼をどう躱すかと考えていた。

一介の騎士では太刀打ち出来ないだろう。


辺境伯領に度々現れるという魔獣も倒す彼ならば、何らかの方法で魔法耐性も持っているはずだ。

余程強力な魔法を放たねば魔術師では尚更勝てない。


戦いになれば頭を悩ます人物だという印象だった。


「ティタンはとある縁で、シグルド殿と手合わせした事がある」


シグルドは、幼き頃より騎士を目指していたティタンの、憧れの人だ。

ほんの遊戯みたいなものだ、ちょっとした戯れ程度の手合わせだったが、強く心に残る思い出。



「まだリンドールの前王妃であった、リリュシーヌ様が生きていた頃の話だ。リオンはほんの幼子だったなぁ、とても可愛かったぞ」

「はぁ…」

リオンはただ相槌を打つ。


「シグルド殿はリリュシーヌ様の父だ。つまり、ミューズ嬢の祖父になる」


リオンは驚く。

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