転移魔法

ティタンとミューズはロキの屋敷へと来た。


一時的に結界を解いてもらい、大規模な転移魔法を展開させて次々とアドガルム兵が転移陣から現れる。


「今ので敵軍もガードナー領へとなだれ込むかもしれん!領民を守るため、第三隊、第四隊は俺と共に侵入したリンドール兵を討つ!投降する者がいたら、可能な限り命は奪うな、立ち向かう者は切り捨てろ!」


オスカーが真面目な顔で指揮を執る。




遊軍の指揮はオスカーが行なった。

「ティタン様、ミューズ様、どうかご無事で」

挨拶だけを済ませ、休む間もなくオスカーはガードナー邸を後にする。


「オスカーも気をつけて!」

「ありがとうございますオスカー様。また後で、必ず会いましょう!」


オスカーはウインクで返事をすると、すぐさま隊を率いて街の方へと繰り出していった。




「ミューズ。無事で良かった」

「叔父様!」


懐かしい顔にミューズは嬉しくなる。


「髪はどうした?切られたか?」

まだまだ不揃いなその髪に、ロキは顔を顰めた。


「生きるために切りました。叔父様も叔母様も元気そうで良かった」


ガードナー家の皆がミューズの顔を見て、安堵していた


「ミューズ様!」

転移魔法を使ってクタクタなのに、シフがミューズに、とびついた。


「無事で良かったです!シフは、シフは心配しておりました」

涙を流すシフをよしよしと、ミューズは撫でる。


「ありがとう、シフ。私は大丈夫だから」


ずっと会っていなかったのに、こんなにも心配してくれていたなんて。

ミューズも泣きそうだ。


「ミューズ、無事で良かった」

キールが話しかける。


同い年の従兄弟だ。


「キールもありがとう、あなたも無事で良かったわ。作戦を聞いて心配していたの」

「オスカー殿の助力で助かった。俺も、まだまだだ」

「いいえ、あなたは昔から努力家だもの。絶対に強い騎士になれるわ!」


ミューズはキールを精一杯応援する。


「二人共、落ち着け。ティタン殿下が嫉妬で狂いそうだぞ?」

ロキはくくっと笑いながらミューズとキールの様子を眺めていた。


「二人はとても、仲が良いんだな」




従兄弟とは聞いているが、やはり異性と話しているのを見るのは面白くない。


「従兄弟ですから」

キールは何気なくそう言う。


「キールはお祖父様と良く手合わせをしていたのですよ、筋が良いと、よく言われていました」

「シグルド殿にか。それは羨ましいな」


自分が憧れる騎士の名前を出され、ティタンは顎に手を当てる。


「ティタン殿下も相当だと聞いています、いつか手合わせをお願いしたい」


こういう場でなくば話せないかもと思い、キールは無礼かもしれないが、ティタンに話しかけた。


ミューズが認めた男性というのも気になるし、そしてシグルドもティタンの事を気にしていた。


「祖父シグルドもあなたの腕前を知りたいと以前から話していました。状況が落ち着いたら皆でぜひ模擬戦を致しませんか?」


「誠か?!ぜひお願いしたい」

剣の話に、ティタンは目を輝かせていた。


「こちらもティタン様がどのように剣を振るうか楽しみです。実践形式とあらば、それぞれ獲物も違いますので」


「楽しみだな」


キールの提案にワクワクしてしまう。


「二人とも落ち着いたらにしろよ。今はまだ忙しい」


ロキの呆れたような声だ。


「ガードナー公、アドガルムからの兵が全て揃いました」


アドガルムの騎士団長がロキに報告をする。


「おう、では結界を張り直すか。皆頑張るぞ」

「ええ」


キールを除いたガードナー家の者が屋敷へと向かう。

急がねば侵入する兵も多くなる。


「ティタン殿下、俺様は暫く結界につきっきりとなるが、リンドールからの一団が落ち着いたら手助けに行く。それまでキールとミューズを頼んだ!」


ロキも身を翻し、屋敷へと入っていく。


「あんなに元気とは凄いな…」


ティタンは感心している。


既に大規模な結界と大人数への転移魔法を使用しているのに、ロキからは疲れが感じられない。


「そうですね、昔から魔力切れを起こしたとは聞いたことがないです」


キールは父が困っている様子など見た事はないが、嫌なことから逃げて周りを困らせる人だというのは知っている。





王妃から出された命令は、ガードナー公とその家族を捕えよとの話だった。


ガードナー家の者は魔力が高く、また抵抗を見せたためかなりの数の兵が派遣されている。


領には強力な結界が張ってあった。


剣も魔法も効かず、入ることも出来ないものだ。



しかし今は結界が解けたため、入れるようになっている。


好機という声と、罠だという声が上がった。


中にいた憲兵達に話を聞けないか、先遣隊に様子見を頼んだ。




「遅い…」

いくら待てども帰ってくる気配がない。


そうこうしている内にまた結界が張られてしまった。


やはり罠だったのだろうとなったのだが、何やらガードナー邸の方が騒がしい。




重々しい地響きの音。

いまだ先遣隊も姿が見えない。


「嘘だろ…?」


自分達が聞いたのは、ガードナー家の者の拘束、もしくは殺害。






アドガルムとの兵と戦うとは聞いていない。




こうしている間にも相当数の兵がこちらに向かっているのが見えた。


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