エリックの真意

「レナン、何をしに来た」

突然現れた妻を見てもエリックは動じていない。


「あなたとニコラは、目的のためなら手段を疎かにしてしまうから、キュアに頼んで全ての話を聞いていたのよ」


レナンはニッコリと笑うとエリックへと平手打ちをしようとする。





エリックは難無くそれを止める

が、妻の怒りがわかり、こうして来てくれた意図に気づく。


「そうだな、すまない」

「いいえ、どう致しまして」




エリックの纏う空気から険が落ちた。



レナンがミューズのもとへ、急ぎ歩み寄る。


「ミューズ様、エリック様の非礼はわたくしが侘びます。どうか許してください」


「えっ、と…レナン様が謝る事はないですから」


ミューズは呆気にとられてしまった。

レナンの登場で、部屋の重苦しい雰囲気が変わった。



「ティタン様も申し訳ありません。エリック様がだいぶ暴走してしまって…珍しく焦ってるようですわ」


「焦ってなどいない」

エリックが否定するよう、口を挟んでくる。


「俺は、大丈夫です。しかし義姉上、焦ってるとは?」

ティタンは気になる言葉聞き返した。


「エリックが言いたかったのはね、可愛い義妹が出来そうで嬉しいって事なの」


「「「はっ?」」」


一同の驚き。




ティタンさえも想像していない言葉だった。

どう聞いても真逆だったが?


「早く家族になって欲しくて、ワクワク感が止まらなかったのよ、強引に話を持っていこうとしてたけど、本心はティタン様とミューズ様の婚姻の話を、今か今かと待っていたの」


うふふとレナンは微笑む。


誰しもが戸惑っていた。




ここにいる皆が信じられないといった顔だ。

あの話でどこにそんな素振りがあったのか。


冷静なのはエリックとニコラばかり。



「エリック様、ティタン様が大事過ぎて、つい口出ししてしまったのはわかります。ですが、あなたの話は難し過ぎます。もっと簡潔に、簡単に述べないと伝わりませんわ」


「そうだな…昔から君に、何度も言われていたのにな」




エリックは認めた。

認めたからには素直に言い直さねばならない。


「ティタン。そして、ミューズ嬢」

「「はい」」


二人は揃って声を出す。




「俺は君達が夫婦になれば嬉しい」

エリックは結論から言った。


「ティタンに政略結婚は望んでいない。そこまでうちの国力は低くないからだ。しかし、このままティタンが独身であれば、その限りではない」


国外との関係性を強めるため、推し進めようとするものは国内外問わず、出てくるものだ。


「話を聞く限り、二人は両想いだと思った。だが、どちらも危機感が足りない。命を落としかけた経験を持ってるのに、返事を先延ばしにしようとしている。何もない時はいいが、今は有事だ。特にミューズ嬢。あなたには時間がない」


先程の件は本当だと話される。




「国王が亡くなれば尚更王妃の手の者が、より政治の深いところまで侵食するだろう。国を取り返したとしても、その後が大変になる。打てる手は早めに打ちたい」


そのために大事なのは二人の関係をしっかりさせること。


「ティタンには話したが、婚約を結んで貰えれば、アドガルムはミューズ嬢の為に力を出せる。大事な弟の妻になる人の故郷だ、俺は家族への協力は惜しまない」


「エリック様…」


ミューズは少し力が抜けた。

発破をかけるための言葉だったと、ようやく理解出来た。


「分かりづらいです、兄上…」

ティタンは苦虫を潰したような表情になる。


エリックの難しすぎる言葉から、真意がわかるわけない。




「すまなかったな、ニコラ」

ティタンの謝罪。


いまだにニコラは床に座ったままだ。


「ある程度予測してましたから、大丈夫です。エリック様の言葉には、ずっとヒヤヒヤしてましたので」




皆には聞かれてると思った。

ニコラは聞かせない配慮を一切していなかったからだ。



マオとは兄妹だ。


自分も室内の声や遠くの音を聞く拡張魔法が魔法が使える。

聞かれたくないなら逆に防音魔法を唱えれば良かっただけだ。



それをせず、周囲に聞かせたのはエリックを止めるため。


ニコラは主には逆らわない。


なので自分以外の、止める要員が必要だった。




従者達がいざという時の為に、常時持っている通信石をキュアと繋いだままにしておけば、キュアからレナンに伝えるだろうと思った。


レナンならばエリックを止められる。



殴られるのも予測の内だ。


防御壁も張って身体強化もかけて備えたが、ティタンの一撃は思っていた以上に重かった。




体の痺れが取れないのでもう少しこのままでいようと、ニコラはだらしなく座ったままでいた。



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