応援と決心

「ミューズ様、ちょっとエリック様のひと押しが強引すぎましたが、何となく自分の心の内に気づけましたか?」


レナンが優しく声を掛ける。


ミューズは少し頬を赤らめ、困ったように眉尻を下げ、俯いた。


ミューズの髪を撫でると、レナンは力強く励ます。

「あなたをいじめたエリック様は、わたくしが責任持って懲らしめます!ですのでどうか気を悪くせず、自分の気持ちに正直になり、安心してわたくしの妹になってください」


「レナン様、お気持ちだけで結構ですよ。でもありがとうございます」

レナンなら本当にエリックを懲らしめそうと思ってしまった。



その言葉を聞いていたエリックの苦笑いが見える。

「そういうわけだ、ミューズ嬢。俺はこれから懲らしめられるそうなので、ティタンにきちんと本音を伝えるんだぞ。他の女性についての話を出した時に、嫌だと思っただろ?それが君の本心だ」




エリックがミューズに近づいた。


思わず警戒して体を強張らせてしまう。


「日常というものは呆気なく壊れる。言いたいことは早めに言ったほうがいい。後悔なきようにな」

ミューズに耳打ちすれば、レナンがむすっとする。


「これ以上ミューズ様をいじめたら、本気で怒りますよ」

「いじめたのではなく、助言しただけだよ」


レナンがエリックの腕を掴んで、引きずるように引っ張っていく。


「レナン様あたしも行きます。ニコラ、グズグズするな」

「キュアも女性ばかりに優しくすんではなくて、同僚でもたまには労りの言葉くらいかけて下さいよ。それではティタン様、失礼します」

ニコラがフラフラと立ち上がり、一同が部屋の外へと向かう。



「ティタン」

「なんですか?」

ドアを閉じる前にエリックはティタンに声を掛けた。


「準備は整えた。結果報告がてら、後で俺のところに来てくれ。一発殴りたいならその時で」


ニコラの表情が引き攣る。

庇い立てまでしたのにと、殴られ損になりそうで腑に落ちない。


そして、まともにティタンの拳を受けたらただではすまないとも実感している。


エリックに受けさせるわけにはいかない。




「殴る理由がない」

「そうか」

ティタンとエリックは視線を交わしたが、それで話は終わった。


パタンとドアが閉められる。


緊張感が解け、ミューズはベッドに体を横たえる。

「大丈夫ですか?」

マオの気遣い。


「とても、疲れたわ…」

どっと体の力が抜ける。


「すまなかったミューズ、今後は兄上が来る時は俺も同席する。無茶な事を言わせないように見張るから」

「いえ大丈夫ですわ。エリック様も色々な事が重なって、心配だったのだと思います」


レナンの仲裁?らしきものがなければ、そうは思わなかったが。


エリックはエリックなりに、弟であるティタンを思っての行動だったのだろう。




「あとはレナン様に任せます。きっと懲らしめてくれますし」


エリックはレナンの言葉を聞いて、表情を変え、きちんと対応していた。


レナンを大切にしているのが言葉の端々からも見て取れたから、特別な人であるレナンが言えば、何でも聞いてくれそうだ。




「…ティタン様。不安はいっぱいあるのですが、今の思いを聞いてくれるかしら」


ミューズは勇気を出して、そう言う。

彼と苦楽を共にする決意が出来た。




従者たちは互いに目を合わせる。

「では、僕は席を外します」

「俺も失礼いたします」


マオとルドは気を遣い、部屋の外へと出た。



ティタンとミューズ。


二人っきりの空間に少々気恥ずかしさを感じてしまうが、だがこの機会に告げなくてはと、ミューズはゆっくりと自分の気持ちを伝えていく。




「いっぱい待たせてしまって、すみません……私は、あなたを」




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