第17話 夢駆け作者、怪盗業を手伝う(4)


 まさに圧迫面接。

 そんな言葉が頭によぎる。目の前にいるのは実は中学生だと理解しているのに、どう見ても社会人にしか見えなかった。高級そうな真っ黒なスーツを着こなしているからだろうか。コレが漫画ならゴゴゴみたいな効果音が彼の背後にみえただろう。それか黒塗りか。ただ、学校で見た時とは違い覗いている瞳の色は青だ。空の青というよりは氷河の青に近い。こんな設定をつけたのかは忘れてしまっているが、おそらく海外の血を引いているのだろう。

 相変わらず睨むようにこちらを見た彼に私はニコリと笑う。


「貴重なお時間をいただきありがとうございます」

「いや、手短に済ませていただくとありがたい。知っての通り今日はもう一人大事なお客様が来るんでな」


 彼はそう言って私をみた。まぁ、おそらくはケイマのことだろう。まぁ、追い払いたいよな、と思う。私は技と尋ねる。


「大事なお客様?」

「……いや。気にするな。貴方も大事なお客様だ。貴方のような笑顔が素敵な女性は会ったことがない」

「リップサービスがお上手ですね。私も貴方のような綺麗な瞳の男性とはあまり会ったことがありません。まるで氷河のような」

「氷河に例えられるのは初めてだ。夜の食事でも、と誘いたくなるが」

「……お忙しいのでしょう?」


 コイツ、ホントに中学生だろうか。え、実は社会人だけれど中学生をしていますとかじゃないよな。とりあえず私はケイマから受け取った資料を鞄から取り出す。一応車内で読みケイマに説明を受けたが、本当に何処かの会社の資料のようだった。


「こちらが上司より預かってきた資料になります」

「読ませていただいても?」

「はい、構いません」


 そう言って私は彼に資料を渡す。彼は早速資料に目を通し始めた。

 もう一人、帽子を被ったあの子がいない。周りの調度品をみるフリをして周りを伺う。品がいい調度品が多いというか、シンプルな調度品ばかりだ。彼の趣味だろうか。

 ノック音がして、目の前の彼が入れと告げる。噂をすればなんとやら、帽子を被ったあの子がやってきた。私は軽く会釈をする。彼が何かを喋り始める。口から出たのは外国語である。それに被さるように同じ声で日本語が聞こえてきた。うまく翻訳されているらしい。


「ハル、お前は向こう担当じゃないのか」

「ボスがさー、この人がさー、怪しいからさー、こっちにいろっていうんだよねー。この人を部屋から出すなーだって」


 そう言ったあの子は私の前に紅茶のセットをおいた。私は軽く会釈をする。あの子は彼の隣に並ぶとお盆で口元を隠しながら口を開く。


「で、主、どんな感じ?」

「この資料を見る限り普通の商談だ」

「はずれじゃん」


 いや、ある意味では当たりなんだよなぁ。まぁ、でも私を出ないようにするということは二人はここから動けないということだろう。


「部下の方ですか?」

「ええ」

「お若そうな方ですね。きっとお二人とも優秀な方なんでしょう」

「まーね」

「ハル。……申し訳ありません。優秀なのですが、いかんせん常識が抜け落ちておりまして」


 資料を整えながら彼が少し申し訳なさそうにする。私はお気にせずと首を左右に振る。


「いくつか質問をさせていただいても?」

「私にわかる範囲ならばお答えします。わからないことは上司に確認しまた折り返しご連絡を差し上げることになると思いますが……」

「それで構いません」


 彼は資料をめくり、このページのここなのですが、と告げる。私は自分用資料をめくりながら答える準備をした。


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