第16話 夢駆け作者、怪盗業を手伝う(3)
「覚えたか?」
「8割ぐらいは。そんな凡人は天才みたいに一瞬で覚えるなんていかないって。しかもぶっつけ本番だし」
そう言いながら私は彼に昨日教わったことを反芻して飲みくだく。最悪俺だけ逃げよ、だなんて冗談っぽく告げたケイマに私は裏切り者ーといいながら彼の腕を軽く小突いた。
ケイマが予告状を出したからか今朝から大変な騒ぎらしい。らしいというのは私がほとんど車の中で車の機能をいじっていた(というか試していた)ため、車に備え付けられたラジオでしか世間の反応を見ていないからだ。しかしながら、話題性は高いのだろうと言う推測はついている。共通の話題にあがりやすいのか街行く人のほとんどが彼の噂をしているのだ。
「まぁ、今回は裏側に関与する場所だから、警察はあんまりいないだろうけどな。俺が短期決戦すること自体が珍しいし」
「ふーん。いつもはどれくらい時間を置くの?」
「3日以上は期間を空けてるな。警察が俺を捕まえるために色々考えてくれてた方が燃えるだろ?」
「まぁ、不可能を可能にする感じがカッコいいのはわかる気はするなー」
それができるのかはさておき。
近くに置いた手袋をはめる。ところで顔を晒したままでいいのだろうか。そう思ってケイマをみれば、彼は仮面のようなものをつけた。私にも差し出されたそれを見つめる。これだけで顔が隠せるものなのだろうか。ケイマは私の表情を読み取ったのか、「まぁ見てな」と指輪に口を近づけた。
「関係者に変装」
そう指輪に向かって呟いた彼の姿が一瞬で知らない男性に変わる。それに倣って私も関係者に変装と言えば知らない人の服に変わった。バックミラーに映る私の姿は確かに知らない女性になっている。変な感覚だ。合わせて車の車種を変える機能をオンにすれば、車のカラーリングだけでなく車種や車内のデザイン等、すべてが違うものへと変化した。クラッシックカーが最近の車に変わっている。すごい。
ケイマが何かを操作すれば、車がターンテーブルに載ったようにくるりと回転する。そうして地下ガレージの大きなシャッターに向き合う形で車は固定された。出発準備が整ったのか、シャッターが開く。私はそれを見てエンジンをかけてミッションを一速にいれサイドブレーキを下す。半クラの状態を経てそのままアクセルを踏み込めば車は動き出した。そのままクラッチとミッションを操作し加速していく。そうしてトンネルを潜ると路面に出た。
「古き良きミッション車だけど、やっぱりオートマの方が楽なんだよなぁ」
「贅沢言うなよ」
それからは目立たないように周りの車に合わせて進んだり、追い越し車線にはいり車を数台抜いたりする。車はご機嫌だ。思ったよりも運転しやすくて私もご機嫌である。フロントガラスに映し出されたナビを確認しつつケイマが設定した目的地にまで車を走らせていく。
「どうやって入るの?」
「裏口から入るのもありだけど、ミドリは商談装って正面に入る。調べた通りならコウヘイの前に連れてかれるはずだから」
「あの子結構な重鎮?」
「まぁな、やり手みたいだぞ。まぁ、俺とお前は別行動。お前は周りの注意を引きながらコウヘイ達を説得する。俺は菅俣を盗むついでにアイツらが握ってる薬物のルートに関するモノを盗んで警察か報道機関に渡す。何かあればお互いに連絡をとる」
さらっと告げられた言葉に私はケイマを見る。いやいやいや、聞いていない。
「ちょっとそこもうちょっと詳しく。と言うか聞いてない。主に注意引く云々を!」
「慣れてないんだよ、他人と盗みに入るの。師匠達とならまぁ計算できるけど、お前に関しては計算にいれるのは無理。だから俺一人で盗みに行く。お前は説得するってした方がスムーズ」
まぁ確かに一緒に行けば私は足手まといになると思われるので、それが正解なのだろうけれども。少し残念だというか、どういう風にしているか少し気になると言うか、私一人で説得できるのだろうかとか。色々考えながら唇を尖らせて拗ねたふりをする。大人だと許されないが、子供の姿なら許されるだろう。ケイマは私をみてケラケラ笑った。
「まぁ、なんかあったら助けに行くから任せとけ」
腕を組んでいい革靴をフロントに乗せて座る彼に、危ないよとだけ言っておいた。
「信じれない?」
「いや、信じるよ。でもせっかくだからケイマの活躍を見てみたかったなっておもって」
子供がすねるようにそう言って私はまっすぐ前をみた。知らない人の外見をしている彼は目をパチパチと瞬いたのだが。
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