第15話 夢駆け作者、夢の中で夢を見る(2)
気づけばまた真っ白な空間にいた。目の前に花びらが散ったと思えばそこにはまた狩衣を着た人物がいる。今回は真っ白な布で顔を隠していた。やはり顔は見えなさそうだ。私と彼の間から、花びらを巻き込んだような旋風が起こる。そうして風が去ったあとは前と同じく花畑のような空間が広がっていた。
「君はこの前の」
「――あの子を助けてくれるのですか?」
「あの子? ……もしかして、菅俣ちゃんのこと?」
私の問いかけに相変わらず顔が見えない人物は頷いた。ということは、彼は例の一族のうちの一人なのだろうか。
「あの子は私の遠縁の子。貴方の知るように夢で未来を見る力を隔世的に受け継いだ子です。助けていただけるのですか?」
彼はそう言って私をみた。声からは心配が読み取れた。私は頬をか来ながら口を開く。
「助けるつもりですけど……未来が予知できるなら教えてあげなかったんですか?」
未来を知っていれば回避できたのでは? と思うのだ。彼は首を左右に振った。
「今私達は未来を予知できません」
「えっ?」
「正しくは、数年先のこの国や世界情勢についてなんてものはなんとなく予知できるでしょう。しかし、人物に関してになると途端に未来がわからなくなります。真っ白なのです。ほとんどの人間の未来が。本来なら一人の人間だけで幾千もの選択肢が視えるはずなのに」
「商売上がったりでは」
私の呟きに彼は困ったような声で「特に商売ではないのですが」と呟いた。私は少し考える。未来がみえない、となれば、だ。
「え、菅俣ちゃんが危なくない? 未来予知が出来るからあの子は連れ攫われてるよね?」
「はい……少しだけ救いなのは、貴方が現れてから少しずつ未来がわかるようになったことでしょう。あの子の危機を私が予知したのはあの子が連れ攫われる寸前でした」
「……私が見てる夢の世界だからかな?」
「似たようなものではありますが、その答えは否です。言ったはずです、この世界はもはや夢ではないのだと」
私の言葉に彼は再度そう告げた。私は意味がわからず首をかしげる。夢ではない、となれば現実ということだろうか。しかしそれはありえないことだ。だった、彼らは私が作り上げたキャラクターなのだから。この世界も私があのころ思い描いていた世界なのだから。私の反応に彼はまた困っているようだった。
「――ひとつだけ。右の胸ポケットにコレを入れておいた方がいいです」
彼がまるで本を開くように手を開く。そこにあったのは私のスマホである。
「それは助言? 忠告?」
「双方です」
私は彼からスマホを受け取る。また風が吹く。花びらを巻き上げていく。
――あの子をお願いします。
世界が白に変わっていく。彼が花びらに紛れて消えていく。瞬きすればまるでチャンネルが変わるように世界が変わる。先程の車の中だ。手元を見れば私のスマホがある。夢だけれど夢じゃなかったというか、夢だから出来る芸当というか。私はスマホをしばらく見つめたあとポケットに滑り込ませた。時計は夜中の三時を指している。私は運転席の背もたれを倒して車内に寝転がった。
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