第14話 夢駆け作者、怪盗業を手伝う(2)
目の前にあるのはクラシックカーと呼ばれる種類の車である。リビングにある別の扉を開けてみればガレージに面していたらしい。そのガレージの中にクラシックカーは鎮座していた。ケイマ曰く古き良き時代の車だそうだ。あくまで外観は、であるが。
どうやらいろいろな仕掛けがあるらしく私は一晩かけてじっくりとケイマにその仕掛けを教わった。車の外観カラーを変えるのも、そもそも車自体を見えなくする事だって出来るし、音も消すことができる優れものだ。唯一優しくない点と言えば一部はケイマがデジタル操作に切り替えている物の、ほとんどがまだアナログ操作をしなければいけない点だろうか。車の運転はてっきり自動運転かと思っていたがそうではないし、そもそもAT車ではなくMT車だ。私はカーオーディオのあたりにあるボタンから目を離してケイマを見た。
「だから使わないの?」
「一人ならバイクの方が勝手が良いからな」
そう言って助手席に座るケイマが親指で指さした先には確かにバイクがある。そちらはよく使われているのか綺麗な状態だ。
「あれは自動運転機能付きで呼んだら来る」
「なるほど学生に優しい」
「まぁ自動運転じゃなくてもいけるけど、なにかと手を使うからな」
「この車は?」
「運転するしかない。免許はもってんだろ」
「持ってるけどさー、今の時代AT車が普通な訳ですよ」
「運転できないのか?」
「できるよ。一応免許はそっちだし、ハンコン付きのゲームもしてるしね。カースタント的なことはできるかわからない」
ハンドルを触りつつそう告げる。まるで何度ものってきたかのように手になじむのだから不思議な話だ。夢の中だからだろうか。
「っというか、外観中学生が運転してる感じになるけどそれはいいの?」
「ホログラムで中身を変えて見せてる。つーか、お前な。俺たちは警察の追跡を振り切るんだぞ。それくらいどうとでもなる」
「そりゃそうだ」
「あとこれな」
ケイマはそう言ってどこからともなく何かおもちゃの銃のような物を取り出した。
「なにこれ」
「麻酔弾、発光弾、スモーク弾がうてる。スモーク弾はリロードする必要があるが、他はチャージして撃つってかんじだからリロードなしでいける。背面にいくつか数字が並んでるだろ?」
彼はそう言っておもちゃのような銃の背面をみせた。そこには確かにいくつか番号が並んでいる。
「1が麻酔弾、2が発光弾、他は設定してない。押さずに引き金を引けばスモーク弾が撃てる。護身用に持ってろ」
「いえす、サー」
「もう一個」
ケイマはどこからともなくピアスを取り出す。なにこれ? と聞けば彼は容赦なく私の耳たぶに――ただしくは耳たぶにあいたピアスの穴にそれを突き刺した。
「俺と連絡を取れたり、周りの言語を日本語に翻訳してくれるピアスだよ。お前のために調節したんだからなー」
「え、まって、普通に嬉しいし、そこまでいくともう魔法じゃん。夢から覚めても欲しい。でもこれどうやって私からケイマに連絡するの?」
「それはこっち」
そう言ってケイマはまた違う場所から指輪を取り出す。次から次へと何もないはずの場所から物を取り出す彼は魔法使いというかマジシャンのようだ。それを私の人差し指にはめる。シンプルなデザインの指輪である。
「口元を近づけて喋るか、指輪を触れば自動的に通信がはいる」
「何それ便利」
「あとは、スーツにもそれはリンクしてる」
スーツとは? と私はケイマを見る。車から降りたケイマは一着の服を取り出した。まごうことなくスーツだった。それもとても綺麗な仕立ての物だった。ジャケットのカラーリングは彼の怪盗団が使用する深紅の色である――これは私が当時から好きだった大泥棒のリスペクトだ――が、中のベストはアンティーク調なセピア系統でパンツスタイルであるが為のズボンは黒だ。
「変装はそのスーツを着た状態で指輪に言えば勝手にしてくれる」
「大人になりたい、とかでも?」
「ああ。でも、大きく見せることはできるけど、逆は無理だな。解くときはta-da!だ」
ケイマの言葉に私「ta-da」と繰り返す。覚えることが多い。初任者研修でもこんなに一気に教わることはないのに。ハンドルにもたれながら一から教わったことを確認していけば彼は窓枠にもたれながら口を開いた。
「人命もかかってるからな、決行は明日の夜にする。それまでに覚えてくれよ」
「がんばりはするけど期待しないでほしいな」
「期待してるぜ、相棒」
彼はそう言うと車から降りて、リビングに繋がる扉を開けるとリビングに向かった。相棒は喜ばしい響きではある。まるで小説の登場人物になったような。ふふふ、と口元に笑みを浮かべる。
「相棒かぁ」
そう呟いた声は心なしか弾んでいた。
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