第13話 夢駆け作者、怪盗業を手伝う(1)
ケイマは取り出したタブレットで熱心に何かを調べているようだった。何を調べてるんだろうか、と彼を見つめる。彼は私の方を見て、面白いものを見せてやろうか、と笑って見せる。面白いもの、とは。
不意にケイマが指をパチンと鳴らすと全ての照明が落ち、彼の持っているタブレットだけが光っている状態になった。かれは画面に映る情報をフリックした。その瞬間、壁一面がまるでモニターになったようにたくさんの映像や文字が並べられていく。プロジェクションマッピングに似てはいるが、それよりもSFっぽく思うのはホログラムのように文字が浮いているからだろう。まるでアメコミ映画の世界だった。
「うわ、すごい」
「だろ? 世界中のカメラやレコーダーの映像を見ることができるし、メディアなんかのカメラもジャックできる。普段は侵入パターンを考えるために使うんだけどな」
ケイマは近くに浮いていたものを弾く。すると動画のページがピックアップされたらしい。道路の映像が目の前に現れる。よくよく見ると、お昼に例の事件を目撃した道である。
「この時間、お前が多分コウヘイと喋ってたぐらいの時間な。これを数分早送りすると」
映像には黒い車が路地から飛び出すように現れる。彼はそこで映像を止めると拡大する。
「車のナンバープレート?」
「いや、偽装の可能性が高い。だが、こんな高級車街中で目立つに決まってんだろ。同じ車種、同じカラーものを追いかけていけば、ルートを調べることはだやすい」
「乗り換える可能性は?」
「もちろんある。でも、それも洗い出す」
そう言って彼は映像の仕分けにはいる。次々と同じ車が映る別の映像が現れ、それと同時に近くに並んだマップにはその車の経路が描かれていく。
しばらくすると車は高級マンションの地下駐車場に入る。そのまま地下駐車場の映像を確認すると彼らは誰かと合流すると車を乗り換えた。メタリックブルーが綺麗な車である。そうして彼らはまた道路を走り出した。
「……レコーダーも見れるなら、この車のドライブレコーダーとか見れないの?」
「おっ、それいいな。高級車ならドライブレコーダーもアナログじゃねぇしいけると思う」
ケイマはそう言ってルートマップをつくる片手でまた作業を始める。器用なことで。そうして見つけたらしい映像はフロントについているだけあって道路だけだ。音声もきちんと入っている。しかしながら聞こえてきた声は私には理解出来なかった。日本語じゃないからである。たぶん、英語や中国語でもない。
「どこの国の言葉?」
「イタリア。訛りが入ってるけどな」
「全く内容がわからない」
そう私がぼやけばケイマが若干残念そうな顔をして私をみた。そんな顔をしてもわからないものはわからないのである。大人がいろいろな言語をしゃべれると思わないでほしい。
「まぁ、世間話みたいなもんだ。仕事の話はほとんどない」
「ちょっとはしてるの?」
「まぁ、お疲れくらいの会話だな」
「……本当に?」
彼を見ながら尋ねればケイマは黙ったまま私をみる。見つめ合うこと数秒、折れたのは向こうだった。仕方ねぇなぁ、とぼやきながら彼は画面をみながら口を開く。
「あの政治家が言っていたことは事実なのか?」
――彼の口から発されている声であるが画面から聞こえている男性の声と同じ声だ。
「事実らしい」
――また違う声である。
「コイツがそうだっていうのか? ――本家は手が出せない、が、分家になるとガードが弱い――コイツができなければどうする――いつも通りだ」
まるで何人かの人が集まって会話しているようだった。目を閉じれば間違いなくそうだと勘違いするだろう。でも、全ての声はケイマ一人から発せられている。
「いつも通り? ――いつも通り、処分しろってことだ」
沈黙。そこで車は何処かに到着したらしい。駐車場に入ったのか薄暗い場所で車が止まった。ドアが開く音して数人の人影が映り――プツンと映像が途切れた。マップが指し示すのは都道府県をまたぐ山の中だ。
「……殺すってことか」
「たぶんな。まだ向こうが判別するのに時間はある」
「でもきっと怖いよね。菅俣さん」
私はケイマをみる。ケイマは私をみた。
「はやく助けに行かないの?」
「……なんで他人事なんだよ」
「えっ、」
「お前も来るんだよ!」
ケイマはそう言って私の肩を揺らす。
「俺は菅俣とついでに汚い金かなんかを盗む! お前はコウヘイ達を盗むというか説得して仲間にするの!」
「私、作者だけど普通の作者なんだけど」
作者だし私の夢なのであるからもう少しチートがあってもいいのではなかろうか。まぁ、仕方ない。彼を手伝うともこの夢を楽しむとも言ったのは私である。いい加減腹を括るとしよう。
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